ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

リタは、私の握ったおにぎりを、うれしそうに頬ばった。


「……これ、なぁに?苦いけど、いい香り。」


ふきのとうで作ったふきみそを入れたおにぎりは初めてだったらしい。


「不思議。酸っぱいの苦手だったのに、……美味しく感じる……。」


梅干しもお気に召したようだ。


「よかったぁ。食べて食べて。お茶だけじゃなくて、お味噌汁も持ってきてん。おにぎりと合うから。」


勢いよくかじりついて、少し喉につまったらしいリタに、汁物を勧めてから……私も1つ食べた。


鮭じゃなくて鱒だけど、塩を多めにまぶして越冬させた鱒を焼いて、たっぷりまぶしたおにぎり。


……しみじみ……美味しいなあ……。

おいしくって……何か、また、泣けてきた。



私、すっかり情緒不安定かも。




メソメソしてる私に、リタが言った。

「……らしくないんじゃない?いつまでそうやって、我慢してるの?」

「へ?……どういう意味?」


鼻をすすりながら聞いてみた。


リタは、肩をすくめた。


「イザヤどのが恋しいなら、会いに行けばいい。少なくとも、私の知ってるまいらは、いくら止めても、自分のやりたいようにやってたよ?」


「……私……変わった?……そうかな……そうかもね。……そっかぁ。……臆病になってるかも。」


なるほど。

指摘されてみれば、思い当たることもあるか。



「きついようだけど、待ってても、イザヤどのはまいらを迎えには来れないよ?逢いたいなら、まいらが行かないと。……ティガが追っ手を差し向けるだろうし、警備兵に捕まるかもしらないけど、まいらは、怒られるだけで済むでしょ?……イザヤどのは、そうはいかないよ?」


リタの言うとおりだ。


私は、オールを上げて、ぐるりと湖を見渡した。


ティガの言いつけ通り、岸も館も見えているから、方角は明らかだ。


「あっちに、イザヤがいる。」

指差して、背筋を伸ばした。



リタはうなずいた。


そして、言いにくそうにいった

「あのさ、……あんまり言いたくないけど……結局、男のひとって、身近に手頃な女がいれば、好き嫌い度外視で、性欲の解消対象にしてしまえると思う。……それにプラスして……イザヤどの、モテるからね。ほっとくのは得策じゃないと思うよ。」