「春やねえ……。」



イザヤと伊邪耶のいない館で、ヴィシュナの花が咲いた。

あまりにも美しいので、花の下で朝食をとっている。




「春ですね。……シーシアさまが冬に咲かせてしまわれたので、もう咲かないのかと思っていましたが……今年も見事に咲きましたね。」

ティガもまた、ヴィシュナを見上げて、感慨深そうだ。



「あー、そうやったね。……シーシア、元気かなあ。リタ、退屈してへんかなあ。」



イザヤとの結婚をなかったことにして、シーシアは再び神の花嫁に就任した。


現在の任地は……内緒だけど、このオーゼラ国改めオーゼラ州の中でも東のさいはてに新宮を建てて籠もっているらしい。


ヴァストークの残党をようやく掃討できたことも大きい。



曰わく、異教の神々によって汚された地域を清浄化するんだそうだ。 




……当然のごとく、オースタ島の神殿は完全に取り壊されてしまった。

現在、宗教色のない簡易宿泊施設が建設中らしい。


完成したら、連れて行ってくれると、ティガが約束してくれた。



早くできないかなあ……。






「オースタ島のヴィシュナも綺麗やろうなあ……。」


そうつぶやいたら、ティガがほほえんだ。


「たぶん散る前に行けると思いますよ。」

「え!うれしい!やったー!」



本気で喜びはしゃぐ私を見守るティガの瞳が優しくて……少しだけ居心地の悪さを感じた。




……あの夜……イザヤがインペラータの首都カピトーリに、なかば強制的に連行され引っ越して、……冬が終わって、春の訪れを感じ始めた頃ぐらいからかな……目に見えて、ティガの私に対する態度が変わった。

 
相変わらず、私のこの世界の師として、学術のみならず政治や経済も教えてくれてるんだけど……なんてゆーか……甘いのよ。



……ぶっちゃけ、好意を感じる。


うぬぼれじゃないと思う。

瞳も、声も、とろけそうなんだもん。



かと言って、馴れ馴れしく、触れるようなことは一切ない。

 
だから私もバリアーを張る必要もなくて、……多少ばつが悪いこともあるんだけど、ティガの優しさに甘えている。




「……イザヤも、来れたらいいのにねえ。」

そんな風に、たまーに牽制を入れつつ、だけど。



ティガのほほえみがアルカイックスマイルになった。



……イザヤの名前を出すとこうなってしまうのも……私への好意の証拠だと思うんだけど……自意識過剰かなぁ?