カッカしてるイザヤは無視して、ティガはもっともらしくうなずいた。

「その通りです。帝政を宣言したものの、現在はまだ政情は落ち着いてません。有り体に言えば、いくつもの勢力が好き勝手に粛正を振りかざして潰し合いをしている状態です。……まいらが異世界人だと知られたら……危険極まりない。」


「私が守る!館から出さぬ!」


子供のようなイザヤをなだめてから、私はティガに尋ねた。


「ありがと。でも今はイザヤの身も別の意味で危険やねんから、とりあえず、落ち着いて考えよう?……ねえ?ティガ?ずっとじゃないよねえ?いつまで?」


ティガは、笑顔でうなずいた。

「もちろんです。カピトーリ王がインペラータ皇帝として教皇からの戴冠を受け、権勢を掌握したのちに、私も国政に参画することになっています。……難航したとしても……この湖と島の調査を終えれば、私もカピトーリに帰るつもりです。その時、まいらも帯同いたしましょう。」


思わずうなずいてしまいそうになったけれど、イザヤの目が怖いので、つばを飲み込んで、改めて確認した。

「……政治的なことはよくわからへんけど、何となく今は危険なことはわかった。わかるけど、そんなところにイザヤだけ行かせるのは不安なんやけど。……イザヤもここに残って、ティガの帰国時に、一緒に行ったらあかんの?」


そんな風に、イザヤと私を引き離さないでほしいと暗に伝えた。



しかしティガは、あざけるように笑った。

「立場が違うでしょう?まいらは異世界人ゆえに利用されやすいという意味で危険と言いましたが、存在自体は罪ではなく、むしろ丁重に扱われるべき存在です。しかし、イザヤどのは敗残国の騎士団長。ここに留まることは状況を悪化させましょう。いずれ反逆ののろしを上げると難癖をつけられて処刑されるのは明らかです。ですから、むしろ、一刻も早く、恭順を示すべきです。……そういう意味では、楽器の寄付は賢明な判断だと思いますよ。」



イザヤはむっつりと口をつぐんでしまった。



ティガは、ゆっくりと宣言した。

「イザヤどののお命も、地位の確保も、楽器の資料館の件も、万事上手く運ぶようにいたしましょう。ただし、まいらは、この館に残るのです。私の仕事が終わるまで。……よろしいですね。」



有無を言わせない静かな迫力に満ちていた。

それは、最後通牒だった。