ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「人間、生きてりゃ、当たり前のことなんだから。恥ずかしがるほうが、おかしいよ。」

「……まあ、そうやけどさ……。」


リタは肩をすくめて、

「ごゆっくり~。我慢しないで、出してから、おいで。……それ、売るから。勝手に処分しないで、ちゃんと置いといてよ!」

と、言って、出て行った。



……売るって……マジ?


抵抗感ハンパないけど、生理現象はどうしようもないので、私はしぶしぶ尿瓶を使わせてもらった。


蓋をして、ベッドの下に戻して……うう……手を洗いたいよぉ……。



水、水……と、ドアを開けると、廊下にはリタだけじゃなくティガも立って、私を待っていた。


私は慌てて、両手を後ろに隠した。



「おはよう、まいら。思った通り、よく似合ってますね。まいらの時代より60年ほど昔のヨーロゥパという国の女性の服の型紙で作った衣服です。」


ヨーロッパって、ずっと分裂してるし、EUだって国っていう概念じゃないと思うけどなあ。

多少の疑問を感じたけれど、黙っていた。


ヨーロッパ史を淀みなく語れるほどの知識は、私にはなかった。




食事は、普通の洋食とあまり変わらないように思えた。

パン、バター、チーズ、数種類の卵料理、ソーセージ、サラダ、フルーツに、ジュースとミルク。

コーヒーもあるようだ。


でも、私の前にフォークとナイフとスプーンだけじゃなく、台湾料理屋で見るような長いお箸や、韓国の金属のお箸、そして木のお箸、竹のお箸と、いろんな種類を並べてあったのは……観察されてるってことだろうか。



ちらりとティガを見ると

「遠慮なく、どうぞ。」

と、言われた。



リタは、何だかワイルドな口調と風貌に似合わず、静かにフォークとナイフでお上品に食べていた。



……まあ、いいか。


「いただきます。」


私は短めの竹のお箸でサラダとオムレツとソーセージを食べ、パンはちぎって口に入れた。



ティガは口元だけは薄笑いを浮かべ、感情の見えない銀の瞳で私を観察していた。



「ごちそうさまでした。」

普通に、美味しかった。



「ねえ、今の何?おまじない?お祈り?」


リタにそう聞かれて、最初は何のことかわからなかった。



すると、ティガがリタに説明してくれた。

「まいらの育ったニッポンという国特有の習慣です。食事の前と後に、感謝を述べるんですよね?」


ティガにそう確認されて、私は慌ててうなずいた。