ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「いざや。いざや。こっちおいで。おやつあげるよ。」

私は小声でいざやを手招きした。


伊邪耶は不思議そうに首を傾げた。


「餌で釣るな、卑怯者。いざやよ。同じ名前のよしみだ。私と共に来るがいい。王城には美味い果実もたくさんあるぞ。どれかは、こやつも気に入るであろう。」


……って!

ずるい!


「イザヤかて、食べ物でいざやを釣ってるやんか!ずるい!」


思わずそう言ったら、イザヤはふふんと鼻で笑った。


「私はいいんだ。この館では私がルールだと言ったろう?」



ほんと、ずるい。


むーっとして、私は悔し紛れに言った。

「イザヤは何で結婚しいひんの?男が好きなの?ティガとか。」


……そんなわけないか。



イザヤはジロリと私を睨むと、ため息まじりに言った。

「婚約者どのが神の花嫁になったから、な。」


婚約者……。

あ、そう。

いるんだ。


……なんとなく、イザヤに婚約者がいると知って複雑な気持ちになった。


同時に、未婚と知って、どこかホッとしていた。

……変なの。

確かに、イザヤ、めっちゃかっこいいとは思うけど、それだけで、別に男性として好みでも何でもないのに。


単に、両親の年齢差と同じ、9つ上の男性だというだけで……もしかして、ちょっと意識したのかな……。


アホやわ、私。


……でも、最初の印象より……冷たいヒトじゃないのよね……。


何と言っても、鳥の伊邪耶に優しいし。


鳥好きに悪い奴はいない!

なかでも、鳥男子は優しい!……と思うんだ。




調子に乗って、私は質問を重ねた。

「神の花嫁って?修道女か何か?……あれ?でもこの国は、女神を信仰してるんじゃなかったっけ?」


「国が違えば神も違うと言ったろう?私の婚約者は隣国カピトーリの貴族の子女だ。5年前に神の花嫁に選ばれた。任期が切れるのを待っている状況だ……。正直、婚約を解消するタイミングを逸したな。」

イザヤはそう言って、顔を曇らせた。



***

その日、イザヤは本当に私の鳥の伊邪耶を王城へ連れて行ってしまった。


職場にペットを連れてくって、どういうこと?

てか、戦わない騎士団って……。




ドアがコンコンと、叩かれた。


あ、よかった。

こっちもちゃんとノックの習慣あるんだ。

「はい。どうぞ。」