ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「この館では、私がルールだ。私の言うことを聞いていればよい。それより、そなた、ゼンのソウリョなのか?」


ゼンノソウリョ……禅宗の僧侶?


そうか。

座禅してたところを見られてたのか。


この部屋のどこかに監視カメラでもあるのかな。




イザヤもティガも私からさまざまな情報を引き出そうと目論んでいるようだが、私にもこの世界の情報が必要だ。

無事に元の世界に帰るために、まずはこの世界でちゃんと生きなければいけない。


当面の目標を情報収集に据えた私は、言葉を選びながら言った。


「違う。でも座禅で心が落ち着くから。この国では何て言う神様に祈るん?それに、イザヤ。その格好。……戦争や訓練じゃなさそう。どこ行くん?」


敢えて敬語を使わず様子を見た。


イザヤは不敬を気にする様子もなく、言った。


「神は、時と場所によって様々に変化する。わがオーゼラは美しい女神への信仰が強いが、自由なものだ。……が、数年後には、信仰の自由は失われるかもしれない。」


「革命でも起きるの?」

まさかね、と思いながらそう聞いた。


でもイザヤは、曖昧な表情で説明してくれた。


「西隣のカピトーリが国々の統一をはかって、反対する国に攻め込んでいる。わが国は、カピトーリに地理的な便宜を約束し、この争乱には参加しない方針だが、そうも言ってられないだろう。いずれは併合されると思う。」



カピトーリという国は、オーゼラという国の西隣なのね。


えーと、太陽がこっちから登るから……あああっ!

ここは、異世界。

太陽が東から登って西に沈む常識が通用するとは限らない!


てか、その太陽も2方向から射してるし。


まあ、いいや。

太陽のことは、あとで聞くとして……



「イザヤは、近衛騎士団長なのよね?戦わないの?併合って、吸収合併されちゃうんでしょ?国、亡くなっちゃうよ?」


何となく、イザヤの口調が冷めてるように聞こえたので、私は逆に熱くそう言った。



するとイザヤは、言葉に詰まってそっぽを向いた。



……なに?

答えたくないって意思表示?


よくわからなくてじっと顔を見てると、イザヤはイラッとしたらしい。


「そんな目で見るな。……わが国には戦うための軍隊などない。近衛騎士団というのは、貴族の子弟を遊ばせておかないための名誉職のようなもので、ただのお飾り人形だ。」