ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

裸で抱き合うこと自体が気持ちよかったわ。

夫婦とか恋人とかにとっては当たり前の行為なのよね。


ふふ。

ちょっとだけ大人になった気分。


……まあ、夫婦ではないし……恋人を通り越して、側室なんだけどさ。



「これで、名実ともに、側室かぁ……。」


そうつぶやいたら、イザヤは複雑そうな顔になった。

「……やはり、不満か?タカヨシの後妻のほうがよかったか?」



いや、それ、冗談にもならないから。


私は毛布にくるまったまんま、ずりずりと船底を移動して、イザヤのふとももを枕に寝転んだ。



「イモムシか。」


笑ったイザヤの頬に、下から手を伸ばして、触れた。


「イザヤがいい。本妻でも後妻でも、側室でも愛玩物(ペット)でも、……イモムシでも、イザヤが可愛がってくれるなら、なんでもいい。」


「……。」


イザヤは眉をひそめて、それから、大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐ききった。


「煽るな。……またやりたくなる。これでもそなたの身体を気遣って、一度でやめてやったのに。」


「え?そうなの?……退散退散。」

慌てて、私は、ふたたびずりずりと、イザヤから離れた。


「はい、急いで。明るくなる前に、帰らんと。がんばれ。」


「……本当に、色気のない……。」

ぶつくさ文句を言いながら、イザヤは大きくオールを動かした。




何となく空が白んできたが、朝がくる前に着岸できた。




「じゃあ、私、先に戻るから。イザヤは、時間差で、自室に戻りなよ。」

そう言って、すぐに降りようとしたけれど、毛布の裾を掴まれて、私はドタリと船底に転んだ。


「痛……」

「しっ!」

文句を言おうとしたけど、イザヤが真剣な顔で私に覆い被さり、周囲をうかがっていた。



……誰か、いるの?



静寂の中……なるほど、館のほうから砂を踏む足音が近づいていた。



ざくざくざくざくざくざくざくざく……。




「……そなたはこのまま隠れていよ。先に行く。後でな。」

イザヤは私にそう指示してから、おもむろに立ち上がり、岸へと上がった。





「びっくりした。イザヤ?そこで、何をしている。シーシアさまはどうした。」


この声……ドラコだ!



「やあ。おはよう。ドラコ。(きた)(かた)なら、まだベッドでおやすみだ。君こそ、どうした?眠れなかったのかい?」


「……そんなところだ。浜の温泉を借りようと思ってな。……なんだ?汚れてるぞ。……まさか、それ……。」


ドラコの声が震えた。