ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「職業は、僧侶。大きなお寺…てゆーか、本山のトップなんだけど……伝わるかな?これ。……んー、教皇とか、大司教とか、管長とか、猊下とか……。わかる?」


イザヤは曖昧に頷いた。

「何となく理解した。なるほど。そなたも、めんどくさい宗教に振り回されているというわけか。……しかし、タカヨシが権力者で、そなたのお母上殿に惚れていたというなら、むしろ、そなたは選ばれやすそうなものだが……。」


「ちょっと、違う。孝義くんは権力者って言うより、偉い高僧なの。立派な聖人君子なの。だから、後ろ指さされるようなことは、絶対しちゃいけないの。」


言ってて悲しくなってきた。

本当に、はなっから、対象外なのよね……私……。


「それに、孝義くん、お母さんに未練ない。ちゃんと別のヒトと結婚して、仲睦まじく暮らしてはったもん。」


だから、今さら、私は……お母さんの身代わりにもなれない……。



「……そうか。……ご立派な聖職者の中年男か。社会的地位は高くとも、楽しくはなさそうだな。」

そうつぶやいてから、イザヤは、私の頬に唇を落とした。


……この場合、目を閉じなくてもいいのかしら?

でも横目でイザヤのきれいなお顔を追うのも……目つき悪く見えちゃう?


困ってる私に、イザヤは笑いかけた。

「やめとけやめとけ。堅苦しい生き方を敢えて選ぶ必要はなかろう。それなら、私にしておけ。まいら。私と、この世界で、楽しく生きよ。毎日、共に音楽を奏で、毎夜、共に快楽に疲れ果てて眠りにつこう。昼も夜も、私の側にいろ。」

「うん!」

力強く返事してから、もう一度、しおらしく言い直した。

「……はい。」


……えーとー……音楽はともかく、快楽に疲れ果てって……そーゆーことよね?


気づいたら、恥ずかしくなってしまった。

たぶん、私の頬、紅潮したと思う。



イザヤはようやく満足そうな顔をした。

「ずっと、そんな顔をしておけ。私だけを見ていろ。」


いつもの、偉そうなイザヤが戻ってきて、ちょっとほっとした。


私も同じ気持ちみたい。

イザヤには、ずっと、そんな顔しててほしい。


「うん。」

素直にうなずいたら、何だか胸にあたたかいものが広がった。


……幸せ……みたい。

そっか。

これが、幸せなんだ。



一方的な片想いじゃなくて、心と心が通じ合い、繋がったような……そんな充足感。