ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

私の……ううん、2人の、唾液だと気づくと、恥ずかしくなって、私は思わずうつむいた。


額に、頬に、うなじに……イザヤは何度も、唇と舌を這わせた。

その都度、私の身体が、勝手に震え、跳ねた。


まるで釣り上げられた魚みたい。

……そっか。

これから、私、まな板の上の鯉になるんだわ。


ますます恥ずかしくて……イザヤの胸に顔を擦り付けて隠した。





イザヤは、神殿には入らず、増設されたというお部屋にまっすぐ向かった。

白い可愛いお部屋には、甘い香りが漂っていた。


豪華な天蓋付きの大きなベッドの中央に、私はそーっと落とされた。


身をよじる隙も与えられず、イザヤが覆い被さってきた。

またさっきの気持ちいいキスをしてもらえることを期待して、私はそっと目を閉じた。



でも、イザヤはキスではなく、再びあの質問をしてきた。


「……それで、タカヨシは、何者なのだ?」




しつこいな……。


目を開けると、イザヤの青い瞳が私を見下ろしていた。



私は、これ見よがしに、ため息をついてみせた。

「どうしても今、聞きたいの?」


イザヤは黙って、こくりと頷いた。



「後でもいいやんか……。」


なんだか責められてるというか、イジメられてるというか……そんな気分になってきた。

でも、ちょっと違ったみたい。


イザヤは、たっぷり逡巡したのちに、ぼそぼそと言った。

「好きな男がいるのなら……後悔させたくない。」



……えーと……。


一応、私を、気遣ってくれてるのかな?

……違う……か……。


これも、シーシアに拒否られたトラウマかな?




私は、イザヤの瞳を覗き込んで、きっぱりはっきり言った。

「イザヤが、好きよ。」


ぐぐっ……と、イザヤの顔が歪んだ。

青い瞳が揺れる。


ぽたり……と、涙が降ってきた。



……やっぱり、ずいぶん深く傷ついちゃったんだなあ……。

かわいそうに。


私は腕を伸ばし、そっとイザヤの頭を撫でてみた。

そして、もう一度伝えた。


「イザヤが、好き。私は、逃げへんよ。だから、安心して。」

「……私は……臆病だ……。」



イザヤの言葉が、すとんと私の中に落ちた。

……うん。

知ってた。

最初は、ものすごーく偉そうで、鼻についた。

話をしてると、うぬぼれの強い自信家ぶりが滑稽だった。