ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

イザヤは、私のワガママを一笑に付した。

「なんだ、そんなことか。驚かされたぞ。……やはり、そなたは、おもしろいな。……たしかに、この島には、わが国の神々と先祖を祀る神殿しかないと言ったが、元々、一族が暫く暮らせるだけの設備は備わっているし、このほど、そなたとの挙式に備えて寝室をしつらえなおした。……本当は、明日、2人で来るつもりでいた。1日前倒ししただけと思えば、かまわないだろう?……それから……なんだ?石が冷たい?かたい?……そんなこと、当たり前だ。……心配せずとも、天蓋付きのベッドを新調させた。……あとは?痛い?……案ずるな。破瓜(はか)の痛みを忘れるぐらい、気持ちよくしてやる。……今夜だけじゃない。明日も、明後日も、極上の快楽を約束しよう。だから、恐がらなくてよい。……おいで。」

 


差し伸べられた手を、じっと見つめた。



この手を取れば、イザヤの口車に乗ったことになってしまう。


……もちろん、本当に、まったく、イヤじゃない。

むしろ、これまでそうならないことが不思議だった。

身をゆだねてしまえば、心身ともに甘やかされて、幸せだと思う。


でも、不安は消えない。

そもそも、私の貧弱な身体で、イザヤが満足するとも思えない。


……すぐに飽きて、ポイ捨てされるかもしれない。




いつまでも固まって突っ立っている私に、イザヤの表情が歪んだ。

 
「……来ないのか?……やはり、そなたも、他に好きな男がいるのだな……。」


苛立ちではなく、悲しみが伝わってきた。



「そなたも、って……。」


イザヤ、シーシアの拒絶……そんなに、悲しかったのかな。


まあ……そりゃそうよね。

さんざん文句言ってたけど、5年間も待ってたんだもんね。


……土壇場で、裏切られたら……悲しいよね……。


 
イザヤの瞳が揺れている。

青い瞳が濡れている。


私は、小さく息をついた。


そして、虚しく下ろされたイザヤの手を、拾い上げてから、大切に大切に、ぎゅっと握った。


「この世で一番、イザヤが好き。だから、そんな、悲しい顔せんといて。……本当は、イザヤが、シーシアを待っていたことも、わかってるから。……それでもいいから。……私の存在が、少しでも、イザヤの慰めになるなら、うれしい。」


言ってて、泣けてきた。


さっきのワガママも本音なら、コレも、掛け値なしの本音だ。