ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「……今のうちに、学ぶことが山ほどあるね。この世界の経済、カピトーリの行政、それから、念のためにサバイバルの技術。……明日から早速、勉強するわ。」


イザヤも笑った。

「まったく、そなたは……すごいな。ティガもほめていたぞ。まいらは、単に頭がいいだけでなく、意欲的だと。驚くほど前向きに、事態を乗り越えようとしていると。……与えられ、享受するだけの女ではないから、無理やり側室にしたら、寝首をかかれると脅されたものだが……今から思えば、あれも、ティガの牽制だったんだなぁ。」


……そんなこと言われてたんだ……。



「最初にイザヤがデリカシーのない発言してたから、釘さしたんやろねえ。……でもさ、シーシアも、土壇場で抵抗したんでしょ?」


何だか、笑えてきた。

本妻との性行為の失敗談を話題にするなんて、私、底意地の悪い側室っぽくない?



イザヤは、大真面目に首を横に振った。

「いや。土壇場だけじゃない。あの女、こちらに到着してから、一切、私を見ようともせず、話しかけても返答もなかったぞ。……5年前……神宮に入る前は、そこまで拒絶されている印象はなかったのだが……。」



……そう言えば、シーシア、わざわざ私に会いに立ち寄るために、イザヤを長期出張させたんだっけ。


嫌われてるなあ……。




トン……と、突然、軽い衝撃を感じた。

驚いて周囲を見回した。


何もない。

ただ、真っ暗な湖が広がるだけ。



キョロキョロする私に、イザヤが言った。



「杭だ。そなたの言った通り、湖底から温泉が湧き出ていたので管を通したが、この時勢なのでな……目立つことはしなかった。」


そう言うと、イザヤは杭の下に手を伸ばし湖の中から鎖を引き上げた。


「あ。ほんまや。硫黄の匂い。……いつの間に……。」



驚く私に、イザヤはニヤリと笑って見せた。

「そなたを驚かせたかったからな。……湯船も沈めてあるから、引き上げれば、いつでも温泉に浸かれるそうだ。……試してみるか?」



ごくりと思わず唾を飲んだ。


身体が火照ってるとはいえ、冬の夜中だ。

温泉には、入りたい。


でも、タオルとか、濡れた体を拭う布がない。

着替えもない。


何より、水着とかないのに、イザヤと一緒に入るということは……イザヤの前で裸になるということで……まだ、そーゆー分野いっさいがっさい未経験の私にはハードルが高すぎる!


「……そのぉ……後で、いいかな?」