ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

でも、確か、それって……


「……それって……離婚前提の結婚ってことよね?いいの?……シーシアがイザヤを守ってくれるんじゃなかったの?……オーゼラがカピトーリに併合されたとき、シーシアの後ろ盾なしじゃ、イザヤの立場、危うくない?」


この結婚が、少なくともイザヤにとっては政略結婚だということは、わかっていた。

でも、正直なところ、シーシアに何の得があるのか、私にはよくわからなくて……聞いても、何か、宗教的なことを言い出すから、全く理解できなくて……本当は、不安だった。


不安がますます大きく膨らんでゆく……。



私の低い鼻を抑えていた、イザヤの指が離れた。

「……血は、止まったようだな。」

そうつぶやくと、イザヤは、今度は私の頬にそっと手をあてがった。

 
やっぱり温かい……。

すりっと、頬をすりつけて、わかりやすく甘えてみた。



イザヤは目を細めた。

「……そなたは、色気はないが、かわいいな。それに、頭がよく回るのに、計算ずくじゃない。心を偽らない。……あの女と離婚しても、むしろせいせいするが……まいらが元の世界に戻ってしまったら……私は、つらい……。」


ドキンと、心臓が跳ねた。

単に褒められたんじゃなくて、けっこう執着されてない?


えーと、私は単純だから、できたら「好き」とか「愛してる」とか「つきあおう」とか「結婚しよう」なーんて言葉が欲しいんだけど……そんなのなくても、ちゃんと伝わってきたよ。

イザヤの気持ち。

 
ドキドキする……。 



  
「ティガも、まいらを側に置きたいようだな。」



おーっと。

駆け引きですか?


 
私はちょっと頬を膨らまして、怒って見せた。




「……もちろん、そなたを、誰にも、譲るつもりはない。むくれなくともよい。……私の側で、私だけを見ていればよい。」


脳天気なイザヤの睦言に、私は苦笑した。


「そうね。国が安泰で、イザヤが貴族のままで、このまま近衛騎士団長、もしくは国の重臣の職を得られるなら、私も何の心配もせず、イザヤの帰りを(やかた)で待ってるんだけどね。……シーシアと離婚しても、カピトーリで安定した地位と収入を得ることができるのかしら?」



イザヤは鼻白んだ。

「……それでは、そなたは、私が貴族で近衛騎士団長だから、ここに留まっているのか?」