つつ……と、鼻の奥から伝ってくる生暖かいもの……。


「おい!まいら!鼻血!鼻血!」

「嘘っ!?」


鼻血?

やだっ!また!?



慌てて私は、身をよじって、イザヤから離れようとした。

けど、がっちりと私を捉えたたくましい腕を、イザヤはゆるめてくれなかった。


「まったく、そなたは……」

こみ上げてくる愉悦に、イザヤはそれ以上言えなくなったらしい。

くっくっくっ……と、肩を震わせて笑った。




ううう。

恥ずかしい。


てか、血……やばいって。

せめて手で隠そうとした。


ら、イザヤに止められた。


「かまわん。」

それだけ言って、イザヤは自分の着ている上衣の裾で、私の鼻を押さえてくれた。


「血がつくよぉ……」


初夜の花婿仕様のイザヤの服は、どう見ても極上品。

白い光沢のある絹のような柔らかものに、金糸銀糸で美しい刺繍がこれでもかこれでもかこれでもか!というほどゴージャスに施されている。

それで鼻血を拭いちゃうとか、もったいないにも程がある。




「……ごめんなさい。」

 
しおらしい私に、イザヤは、ただただ愉快そうだった。


「気にするな。やはり、そなたは、おもしろい。……今宵は、敢えて、そなたの部屋へ行くことを諦めたというのに……これも、女神の(えにし)だろう。」


「……いや、そもそも、私の部屋に来たらあかんやん。……シーシアは?ほってきたの?」



たとえば、賢い側室なら、本妻のもとに泊まった男に、わざわざ状況を尋ねたりしないだろう。


ましてや、この状況……何があったのか……てか、ナニは、なかったのか?……ああ、そうか。


「精力剤飲んだのに、儀式で失敗したんや……。」


私は、賢い側室には、永遠になれないかもしれない。


口をついて出た言葉を、すぐ後悔した。


さすがに、イザヤの顔から笑顔が消えた。



「あ、ごめん……。」


一応謝ったけど、遅いよね。

我ながら、デリカシーなさすぎだわ。



イザヤは、ふうっと息をついた。


「精力剤は関係ない。あの女は、私に触れられるのは、指一本でも我慢ならないそうだ。……神の花嫁がどうのこうのとほざいていたが……どうやら、他に好きな男がいるようだ。」