ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「じゃあ、回収されるまで、この部屋にあるの?私、さっき、牛肉食べたから、絶対くさいのに……」


ティガに聞こえないように、小声でしょんぼりそうつぶやいたら、

「マイラ、カワイイ。」

と、伊邪耶が、お母さんの優しい声で言った。



……かわいくないよ。



朝まで寝てろと、言われても眠れるわけがない。

とりあえず雨合羽を脱ぐと、私はベッドにうつぶせに寝転んだ。


愛鳥の伊邪耶が、トコトコとやってきて、私の頬にぴとりとくっついたまま、自分の羽の中に顔をうずめて眠る体勢になった。


……かわいい。

うん。

私、異世界に1人、じゃない。

伊邪耶の存在に、心細さがかなり緩和されてる。


でも、お父さんとお母さん、心配してるだろうな。

場所が場所だっただけに、竜神か弁天による神隠しとか思われてそう。



……誘拐されたわけじゃないけど……救出を信じて待ってても何も変わらない気がする。



ところで、私、どうしてココに来てしまったんだろう。

あの部屋は実験室と言ってたけど、ティガは何らかの実験中だったってこと?

ああ、わかんない。



「マイラチャン。」

伊邪耶が、寝言のようにそう言った。


優しい声。

これは、さっちゃんの声だ。


遠慮がちに、控えめに、……でもとっても親しみを込めて、いつも優しく呼びかけてくれる、私のお姉ちゃん。


……やっぱり、泣きそう。


でも、泣いたって何も始まらない。


考えよう。

今の状況について、ちゃんと考えなきゃ。



せっかく気持ちよさそうに眠っている伊邪耶には悪いけれど、私はムクッと起き上がった。

そして、ベッドの上で座禅を組んで丹田を意識して腹式呼吸を繰り返す。


お母さんの実家は、お寺だけど、座禅を組む習慣のない宗派だ。

なのに宗派のトップの孝義くんは、自宅の自分の部屋でだけ、たまに座禅をしている。

幼い時から空手をやっていた孝義くんにとって、座禅は宗教的意味合いより精神鍛錬の一種らしい。


……だから、私も、孝義くんの真似をしてみる。


落ち着け。

あせるな。

まずは、心を平静に保って、それから周囲をよく見るんだ。

必ず、解決策はある。



ふうっと静かに長く息を吐く。



大丈夫。


私は、頑張れる。


伊邪耶も、もちろん私自身も守り切る!