イロイロ聞きたいことが多すぎて、私は思わず駆け寄った。


なぜかイザヤは再び、姿を消した。

船底に寝そべっているようだ。



「……もしかして、それ……隠れてるの?」

「しぃっ。……このまま、沖まで行ってくれまいか。」

小声で尋ねたのに、イザヤは用心深く身を隠して、そう言った。



よくわからないけれど、逃げ出したいのね。

てか……逃げて来たの?

……シーシアから?

まさか……ね?


私は黙ってボートに乗り込み、オールを手に取った。

夜空を見上げて、湖底温泉を目指す。


岸が遠くなってから、イザヤがやっと身を起こした。

そして、私からオールを取り上げて、そのまま、私の頭を自分の胸に押し付けるように抱きしめた。


「……どうしたの?」

何から聞けばいいのか、わからない。


でも、イザヤの体温が心地よくて……何もかもが、どうでもよくなってくる。


てか、イザヤ……熱くない?


「熱、高いみたいだけど。……風邪ひいた?大丈夫?」


顔を上げてそう聞いたら、イザヤは困ったようにほほえんだ。


青い瞳が近くて……吸い込まれそう。


「……いや。そうじゃなくて……儀式で失敗しないように精力剤を嫌というほど飲まされたからな……身体中が、熱くて熱くて、おかしくなりそうだ。」



精力剤……。


私まで頬が熱くなったのを自覚した。


「……。」

言葉が出ない。


それでも、一生懸命ひねり出す。


「……お疲れさま。」


言葉よりも雄弁に涙がボロボロこぼれ落ちた。


ダメだ。

苦しすぎる。

つらい。


なのに、私を泣かせたことが、イザヤはそんなにうれしいのだろうか。

へらっと、口元をゆるませて、慌てて右手で隠した。


多少呆れて、じとーっと見ていると、イザヤは自分の袖口のぴらぴらで、私の涙を拭いてくれた。


そして、再び頬を緩めて言った。

「ああ。疲れた。……あの女があんなに依怙地だとは思わなかった。父親に対する従順さの欠片も、私には持たないらしい。アホらしくて、やめた。やってられるか。馬鹿馬鹿しい。」


「へ!?」


やめた?

やめたって、何を?

初夜を?

結婚を?


目をパチクリさせる私に、イザヤは至近距離でウィンクして見せた。

ばちこーんと音をさせて、風を動かしたウィンクに被弾して……私はのぼせたようだ。