冷静になれば、わかる。

私は悲劇のヒロインなんかじゃない。

ただの、脇役。

お姫様は、シーシア。

イザヤの奥さんは、シーシアだけ。


わきまえなきゃ。



何度も何度も、自分に言い聞かせた。



とても眠れなくて、私はベッドの上で座禅をした。




どんなにつらくても、いやでも、朝はやってくる。

明るくなれば、立会のかたがたは王城に、そしてカピトーリに、婚姻の完遂の報告に発つ。

それで、とりあえずは、終わり。

あとの細かいご挨拶周りや、一通りのサロンパーティーは、また別の話。


……昼には、イザヤとシーシア、起きるのかしら。



私は、どうすればいいのかな。

とりあえず、表面的には言祝(ことほ)ぐべきよね。


いつ?

わざわざ訪ねるの?

どこへ?

お茶の時間?

食事のとき?


……てか、食事……これから、私、どうなるんだろ。

さすがに、これまで通り、イザヤと一緒ってわけにはいかないよね?

イザヤはシーシアと食べるはず……夫婦になったんだもん。



じゃあ、私は?

ティガやリタと一緒になるのかしら。



……客人と、側室って……やっぱり、違うよね?



側室って、昼間は何をしてるんだろう。

今まで通り、剣のお稽古して、お勉強して、楽器のレッスンをしてていいんだろうか……。



自分の立ち位置が、わからない……。



うーん……。

そもそも、側室って言っても、実際のところ、どう振る舞えばいいんだかも謎なのよね。


イザヤに聞いても、あまり参考にならなさそうだし。

だからと言って、ティガに聞くのも、恥ずかしいよなあ。



あー、ダメだ。

煮詰まった。

……頭、冷やしたい……。


こんなとき、はめ殺しの窓って不便。

風に当たりたいな。

外に出るのは、まずいかな。


……でも、さすがに、もう、みんな寝静まってるよね。

誰も……気づかないよね……。




そーっとそーっと、私は部屋のドアを開けた。

鳥の伊邪耶が少し動いたようだ。

まだ暗いから、起こして連れてっちゃ、ダメよね……。

すぐ戻るね……と、心の中でつぶやいて、私は自分のお部屋を出た。



館は、静まり返っていた。

さすがに、みんな寝たみたい。




足を忍ばせて廊下を進み、階段を降りた。

玄関のドアを開け、庭を通り抜け、門を出た。