お台所は、真夜中だというのに、活気づいているようだ。

こんな遅くに、お夜食?


お台所に入ろうとしたところで、軽食やワインを運ぶ給仕くんたちと出会い頭にぶつかりかけた。

「失礼しました!」

「大丈夫。私こそ、忙しいのにごめんなさい。……夜分にお疲れ様です。お客様たちにお持ちするの?」


なにげにそう聞いてみたら、給仕くんは顔をしかめた。


「そうなんですよ。もっと早いと思ってたのに、ずいぶん遅くなってしまったから、お腹がすかれたそうです。朝になっても始まらないかと思ったと、笑っておっしゃってました。……僕らも、待ちくたびれて、眠いです。」



ヒクッと、右頬だけが引きつり上がったのを自覚した。

てか、顔だけじゃなくて、なんか……全身こわばって、おかしい。

私、固まっちゃったみたい。



……初夜の儀式が終わったんだ……。


そっか……。

よかった……ね……。



あ、いかん。

理性では、これでいい、しかたない、めでたしめでたし……って、思おうとしてるんだけど。

どうしても感情がついていかない。


苦しくて、苦しくて……胸が、痛い……。

もう……お酒じゃ……無理……。





給仕くんを無理やりな笑顔で、送り出し、そのまま私も、(きびす)を返した。

慌ただしく行き交う給仕くんや従者くんたちの邪魔にならないように、廊下の壁際をつたい、なんとか自室へ戻った。


鍵を開けて、部屋に入ると、もう、ダメだった。


堰を切ったように、涙がどばーっと流れ出す。

嗚咽を我慢することもなく、声を挙げて泣きじゃくった。



涙が枯れるまで泣いたら……楽になるのだろうか……。



……そっか。

これって、……失恋みたいなものかな。





クラスの子たちが、告白で玉砕してきたり、彼氏から別れを切り出されたり、浮気されたり……恋に破れて、前後不覚になって、号泣している姿を、私はいつも他人事として遠巻きに見ていた。

……別にイジメられてはいないし、クラスから浮いてるわけでもないけれど、私は女子特有のベタベタしたグループに属するのが苦手で……かといって、特別な親友の女子もいなくて……失恋を親身に慰めた経験もなかった。


一番の仲良しは、めっちゃクール男子の至信(しのぶ)くんやからなあ……。

まあ、その十文字至信くんと私がつきあってると誤解してる人は多いけど、まったくそんな関係ではない。