「まいら!……か。」

緊迫した声に、びっくりして、飛ぶように、後ずさりした。


扉を開けたのは、冬の夜なのに頬を上気させ、汗に赤い髪を濡らしたドラコだった。


「……あ……鍵……忘れて……ごめん。邪魔した?……よね?……ごめん……。」


妙に生々しい、色気だだ漏れなドラコに、私は、それ以上何も言えなくなってしまった。


……初対面の時、浜辺の温泉で、ドラコの身体は見たけど……今まさに汗を流していた脈動は、ちょっと……目の毒かも。



「いや。……気を遣わせた。すまない。まいら。……鍵だな。ちょっと、待ってくれ。探して来る。」

ドラコの頬が赤らんでいる。

ばつが悪いというか……恥ずかしいみたい。


まあ、そうよね。

どう見ても、最中か事後まもなく、って感じだもん。


私はなるべくそのことに触れないように、おとなしくドラコを待とうとした。

けど、すぐに、ぬっと細い腕が、私の部屋の鍵を突き出した。


……リタ……裸だから、出てこられないのかな。

はは……。



ドラコはリタの手から鍵を受け取り、そのまま、私に手渡してくれた。


「ありがと。お邪魔しました。ごめんなさい!」

慌てて、その場を離れた。


ドラコは軽く手を上げて、私を見送ってから、再びティガの実験室へ戻った。



……続き……するのかな……。 


想像して、何だか悶々としてしまった。


でも、まあ……リタ……よかったね……。

ドラコ、自分で家庭人に向いてないって言ってたけど……リタのこと……ちゃんと、大切にしてくれるよね?

ドラコに、釘、さしてやろうっと。

なかったことになんか、させないから。 

私が証人だ。




さて。

もう一度、北の棟へ続く廊下を通るのは……気恥ずかしいかな。

めっちゃ気にして、心配して、ウロウロ待ってるみたいに、従者くんたちに思われちゃいそう。



そういうことじゃないのよ、ほんとに。

お酒で紛らわせて寝るつもりだったんだから。




うーん、すっかり醒めちゃったな。

もう一回、飲み直したほうがいいかなぁ。



……さらに遠回りになるけど、お台所に行けば、何かあるやろうか。


てか、今、何時頃なんやろ。

明確な時間の概念はないとは言え……深夜であることは間違いなさそうだ。


儀式、無事に終わったのかな……。