「うん。くやしいけど。相手にされてない。」

渋々私はうなずいた。


「……なるほど。では、やはり、イザヤどのとは状況が違いますね。」


そうね。

確かに違う。


孝義くんは、もし誰かと再婚するなら、……それでも私に側にいろ、なんて絶対言わない。

言うわけない。


そんな馬鹿なこと……平気で言ってのけるの、イザヤだけ。

ほんと、呆れるわ。


ばーか、ばーか。

イザヤの、阿呆(あほ)ぅ。


……ぐすん。




「……私はね、まいら。長い年月、いろんな意味で、イザヤどのとシーシアさまが仲睦まじいご夫婦になられることを祈っておりました。……しかし、今となっては……虚しい……。」


ティガは珍しく弱音を吐いているようだ。


「この婚礼は失敗です。私は、見誤りました。……惹かれ合う魂を引き裂くことも、反目しあう魂を無理に結びあわせることも……不幸を、より大きくするだけでしょう。」

「……今からでも、辞めちゃえばいいやん……。」

しみじみ、そう言っちゃったのを、慌てて咳でごまかした。


ティガは黙って、背中をさすってくれた。


「ごめん。ありがとう。大丈夫。」

「また熱を出さないように。ちゃんとベッドの中で、休むのですよ。」

そう諭してから、ティガは、私から手を離した。


「……まいら。忘れ物をいたしました。ちょっと、行ってきますね。……独りでお部屋に戻れますか?」

「うん?……うん。大丈夫。」


そう言ってから、私は冗談のつもりで付け加えた。

「嫉妬に狂って初夜をぶち壊しに行ったりしないから、安心して。マジで、もう眠い眠いから。」


「……まいらが暴れたいなら、止めませんよ。行きますか?」

ティガは、むしろけしかけた。


私は慌てて両手を振った。


「行かへんってば。」

「……では、おやすみなさい。まいら。寝て、起きたら、明朝、イザヤどのをお慰めしてあげてください。」



慰めてほしいのは、私もやけど。


……でも、絶対、私よりイザヤのほうが不機嫌なんだろうなあ。


まったく、手の掛かるヒトだ。


想像に脱力して、私は独り、とぼとぼと歩き出した。



ランプの灯りがゆらゆらしてる長い長い廊下。 
いつもより長く感じる。


……北の棟へ続く廊下は、敢えて通らないように、遠回りをした。