ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

部屋の外に出ると、本当に夜の闇がうっすらと白みかけていた。


「朝になったら、私の助手を遣わします。身支度をとののえてから、食事にいらっしゃい。」


そう言って、ティガは私を客室らしき部屋に連れて行ってくれた。



さっきの研究室とは全然違う、ベッドのある普通の部屋のようだ。

……電気はないみたい。


でも、部屋の四隅にランプのような硝子の中で力強く炎がゆらめいて、明るい。



「いざやは私が預かっておこう。」


しれっとそう言ってヒトのイザヤは、鳥の伊邪耶をつまみ上げニッコリと笑いかけた。


私に向ける冷たい目と全然違う。


イザヤが伊邪耶に向ける瞳は、ちょっとムカつくぐらい優しかった。



「マイラ。マイラ。マイラ。」

鳥の伊邪耶が私を呼んだ。


「でもいざやは、私のそばにいたがってるのに。」


そう言ったら、イザヤは鳥の伊邪耶を見た。


「マイラ……。」


母よりもゆっくりとしたトーンの優しい声。

これ、亡くなったおばあちゃんの呼び方だ。


おばあちゃん……逢いたいよ……


うるっと涙がこみ上げてきた。




「……泣いたか。」

イザヤはそうつぶやくと、鳥の伊邪耶を解き放った。


伊邪耶は慌てて私の肩に飛んできた。



「いざや……。」


首を傾けて、頬を肩の伊邪耶にくっつけた。


伊邪耶もまた、うれしそうにすりっと私に身体を寄せた。




「それだけしか飛べないのなら、伝書鳩の役目も果たせないでしょう。イザヤどの。小鳥はまいらに。」

そう言ってくれたティガに、思わず頭を下げた。

「ありがとうございます。」



「いいだろう。後でまた話を聞く。その鳥も連れて来い。」

イザヤはそう言って、スタスタと行ってしまった。



「では、少しお休みなさい。ああ、この館にはいろんなヒトが出入りしてます。まいらの安全のために、部屋に鍵をかけますね。」


ティガはそんな風に言ったが、ただの監禁だろう。


「あの!トイレに行きたくなったらどうしたらいいんですか!?」

慌ててそう聞いた。


ティガはちょっと顔をひきつらせた。

「……まいらの時代のニッポン人はいませんが、同じ頃のアメリカ人の記録を読んだことがあります。排泄物を自動で運び去るだけではなく、自動で洗浄して乾かしてくれるそうですね。残念ながら、今のこの国にそのようなシステムはありません。ベッドの下に、尿瓶と箱がありますので使いなさい。あとで係の者が回収します。」

えー……。

泣きそう。