「……あとはお役目のかたがたにお任せして、我々は、今宵は深酒して寝てしまったほうがよさそうですね。……未成年ではありますが、……リタも。まいらも。」

「もちろん、私もいただくからな。」

ドラコの目は既にすわっている。

全身から、イザヤへの嫉妬がゆらいでいるようだ。


「イザヤ……イザヤ……イザヤ……。」

私の胸元で丸くなって眠っていた鳥の伊邪耶が突然、小さな声でそうつぶやいた。

寝言みたいだけど……ドラコをなだめているようにも感じた。



「それでは、とっておきの酒を開けましょう。」

ティガの心意気に、ドラコも少しだけ愁眉を解いた。



***


イザヤの館に帰り着くと、私達は着替えのために、それぞれの自室へ散った。

すっかり夜も更けたため、伊邪耶には、毛布をかけた鳥籠の中でおとなしく眠ってもらった。

私は伊邪耶が騒ぎださないように、そーっとそーっと着替えた。

その分、階下の音がよく響く。

初夜に立ち会うお役目を担ったお歴々が到着し始めたようだ。

彼らはこの館でも饗応を受け、床入りの準備が整うのを待つ。


程なくイザヤもシーシアを伴って帰館するだろう。

考えると、胸がズキズキ痛む気がした。


……やめよう。

考えても、仕方ない。


今夜は、何も、感じたくない。



喧騒から逃れるべく、私達はティガの研究室へ集った。

この部屋は館の南側の離れに位置し、シーシアの為に増設された北の棟からは一番遠い。




「……昔の日本では、正妻のことを『(きた)(かた)』って呼んだのよね……。ちょうどいいよね……。」

あっという間にお酒が回った私は誰に言うともなく、そう呟いた。


ティガには通じたらしく、うなずいてくれた。

「ええ。そのようですね。……今回は、たまたまですが……。北側からの湖の眺望が美しいからと、まいらが薦めて下さったのでしょう?」


「うん。……少しでも、シーシアの気持ちが慰められたらなあって。」

私の真意を、リタがからかった。

「そうだったの?てっきり、イザヤとまいらの寝室のある本館から遠ざけたのかと思った。」

「……。」



冗談でも、笑えない。

確かに、寝室を並べるのは、ばつが悪いけどさ。


……てか……別に、シーシアも、もちろん私も、イザヤの寵愛を争うつもりはないと思うんだけど……。




「思惑はともかくとして、大切なのは、シーシアさまがおくつろぎ出来るかどうかです。まいら、お心遣い、ありがとうございます。これから、シーシアさまを、よろしくお願いしますね。」