豪奢な金色の髪を美しく結い上げた彼女の強い意志を感じさせる青い瞳はイザヤと同じ色だ。


イザヤはスクリプカを弾く手を止めて、彼女に一礼した。

「これは姉上。お久しぶりです。姉上も、相変わらず、お美しい。」


イザヤの言う通り、お姉さんはキリッとした美人さんだった。


「ご挨拶は後でけっこうよ。」

そう言って、お姉さんは私に会釈した。


私も、慌てて椅子から立ち上がり、深々とお辞儀した。



「では姉上。後ほど。まいら。おいで。」

イザヤはそう言って、私の手を取った。


「イザヤ。カシコイ。イザヤ。カワイイ。イザヤ。」

私たちに置いて行かれたくない!とばかりに、鳥の伊邪耶が慌ててイザヤの肩にしがみついた。



***


イザヤと共に祭壇の前に立つ。


式典は、神官の祭司のもと神々の祝福を得るという形式で行われた。


ここでもイザヤは型破りな演出を入れた。

誓いの言葉をアカペラで歌い上げたのだ。


しかもシーシアの名前の部分は、節回しをわざと難しくして誤魔化した!


さすがに私にはそんな大胆なことをやってのけるスキルはない。

教えられた通りの、婚姻の誓いの言葉を唱えて、シーシアの代理であることを名乗ろうとした。

ら、イザヤは私の腕を強引に引き寄せた。


「え!?」

驚く私にイザヤはウィンクして見せた。


……止められてしまった。

これじゃ代理じゃなくて、乗っ取りじゃない?


本当に、いいの?



私の困惑をよそに、式典は進む。

指輪の交換も、誓いのキスもないけれど、私たちはオーゼラの神々と参列する貴族たちの前で、おままごとのような婚礼の儀式を滞りなく終えた。



イザヤはご機嫌さんで、再びスクリプカを奏でた。


これ!知ってる!

クライスラーの「愛の喜び」だ。

超有名なヴァイオリンの曲だけど、この世界ではあまり知られてないらしい。


参列者たちは、イザヤの楽しそうな「愛の喜び」に喝采しながらも、口々に推測した曲名を言い合って首を傾げているようだった。



イザヤは、続けて「愛の悲しみ」を弾いた。

……よく一緒に演奏される曲ではあるけれど……今日の象徴のような気がして、私はだんだん悲しくなってきた。



どんなにイザヤが私に気遣ってくれても、しょせんシーシアの代理。

シーシアが到着すれば、私は用済み。

王城での晩餐会も、……夜の床入りの儀式もシーシアの役目。

泣きそう。

てか、ほろっと涙がこぼれた。