神殿に到着すると、イザヤはすぐにスクリプカを奏で始めた。


あ……この曲は……覚えてる。

イザヤが出張先から送ってきた楽譜の曲だ。


不思議。

私が弾いても退屈な宮廷音楽でしかなかったのに、イザヤは何て鮮やかなメロディーを繰り出すのだろう。

華やかで可愛くて、聞いてるだけで笑顔になる。



「イザヤ、すごい。こんな曲だったんだ……これ。」


驚いて拍手すると、イザヤは満足そうに笑った。


「いい曲だろう?古道具屋で見つけた。譜を読んで、そなたを思い出した。」

「私?」


びっくりした。

てか、私は退屈な曲だと思ったんだけど……。



「ああ。まいらだ。一見、古臭くて四角四面で武骨な曲だが、私には手応えがあって楽しい。可能性に満ちた曲だと思わないか?」


イザヤはそう言って、チョイと、私の肩で丸まっていた鳥の伊邪耶をつっついた。


「マイラ。オチタ。」

「落ちてない落ちてない。おいで。」


鳥の伊邪耶を手の中にそっと入れてから、イザヤに言った。


「うれしい。もう一度、弾いて。」



するとイザヤは仰々しくお辞儀をして見せた。

「何度でも。この曲は、まいらに捧げる。」



……捧げられちゃった。



***


荘厳な神殿にイザヤのスクリプカが響き渡る。

参列する貴族は、まさか新郎が演奏してるとは思わなかったらしく、みな一様に驚いていた。



「まいら。トゥルバールガンで伴奏してみるか?」

次第にヒト目が気になってきた私に、イザヤがそう誘ってくれた。


「トゥル……何?」


イザヤの指さしたものは、壁から出た鍵盤。

どうやら、壁だと思っていた厳かな柱は、パイプオルガンだったらしい。



「うん。これなら弾ける。と、思う。」


そう言ったら、イザヤは頭から弾き直してくれた。

私もイザヤに伴奏する。


……音が、違う。

クラヴィシンとは大きさも音も違う。


荘厳な響きは、私の単調で拙い弾き方にむしろ合っている気がした。



イザヤのスクリプカが、大きく遊び始めた。

伴奏を得て、安心して脱線し始めたらしい。


水を得た魚のように、活き活きとイザヤは音の冒険を始めた。


参列者の感嘆が心地よくて、私まで気持ちよくなってきた。




「相変わらずですね、イザヤ。でも、そろそろおよしなさい。神官さま達が開式できず困ってらっしゃいますよ。」


臈長けた美女が歩み寄り、凜とした声でそう止めた。