ティガとリタは国境でシーシア一行を迎えることになってる。

シーシアはそこでご両親や慣れ親しんだ使用人・友人・親類と別れて、スヴァートと呼ばれる媒酌人と護衛の騎士数名だけでオーゼラに入る。



「ああ。婚約者どのをよろしく。」

イザヤはまるで社交辞令のようにそう言って、ひらひらと手を振った。



ティガは無表情で頭を下げて、部屋を出た。




「まだカピトーリの神宮での儀式が終わったところでしょう?これから宮廷でお披露目の午餐会。シーシアの到着は夕方のはずなのに、もう国境で待機するの?」

「……気が()くのだろう。かくいうそなたも、朝から髪を結い上げて、ドレスを着ているではないか。さあ、我々も神殿へ移動するか。」

イザヤはそう言って、私の手を取った。


「だって、せっかくイザヤがドレスを作ってくれたんだもん。うれしくって。」

そっとスカートを摘まむと、凝ったレースが美しく広がった。



既にあるドレスで充分なのに、イザヤはウェディングドレスを2着も作ってくれた。


1着は、今日の儀式のために高いレースをふんだんに使ったゴージャスなドレス。

もう1着のシンプルなドレスは……後日、オースタ島の神殿で2人だけで挙式するため、だそうだ。



「よく映えている。……このまま、そなたを連れて逃げてしまいたい。」

イザヤはそう言って、ため息をついた。


……どうやら冗談ではなく、紛れもない本音らしい。


うれしいけれど、実行させるわけにもいかない。



「仕方ないでしょ。それより、お姉さんの到着をお待ちしなくていいの?」


妹さんが無惨な死を遂げた今、イザヤの肉親は、カピトーリで住まうお姉さんだけ。



「この館には来ない。姉上は、王城に頂戴している我が家の部屋に滞在する。……ああ、姉上は婚約者どのによい感情を持ってない。まいらのことは、たぶん気に入るだろう。……こやつのことも、な。」

そう言って、イザヤは鳥の伊邪耶にキスした。


「イザヤ。カワイイ。イザヤ。カワイイ。」


そう繰り返す鳥の伊邪耶に、イザヤは真面目に繰り返して教え込んだ。

「違う。まいらだ。まいら。かわいい。まいら。かわいい。……言ってみよ。」



……恥ずかしいから、やめて……。


私はイザヤの腕にぎゅっとしがみついて顔を伏せた。



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