アルペジオだ。

柔らかいバロックギターの音色……なんだけど、イザヤのイライラが音にしっかりと反映されちゃってる。


……そっか。

結婚しても、シーシアはカピトーリの教義に生きるつもりなのよね。


「じゃあ、シーシアがオーゼラの神殿での挙式を拒否するから、イザヤもカピトーリに行かないの?……なんか、まったく婚礼の儀式の意味ないね。自分の国で相手不在でそれぞれ代理を立てて勝手に挙式するってことよね?」


ひどいなあ。

全然幸せそうじゃない。

こんな結婚、本当に不幸だ。



「どうせ婚約者殿とは相容れぬ。どうでもよい。……それより、まいら。そなただからな。」

イザヤはギターを爪弾く指を止めて、そう宣言した。


「……何が?」

よくわからず、私は聞き返す。


「何って。婚約者どのの代理だ。」

当たり前のことのように、イザヤは言った。



私にシーシアの身替わりになれ、と?

イザヤと、代理の結婚式を挙げるってこと?



「……何で?」

他人事を決め込むつもりだったのに、突然、巻き込まれてしまった。


ドキドキし始めてきた。

まずい。



「慣例だ。そのつもりでいてくれ。」

イザヤはそんな風にしか言わなかった。




私は慌ててオーゼラの儀式の本を手に取り、ページを繰った。


代理、代理、代理……あった!

えーと、「新郎の代理は、新郎もしくは新婦の血縁者の中から選出する。新婦よりも年長者で父か兄が好ましい。」か。

……てことは、カピトーリでシーシアはお父さんかドラコを代理に立てるのだろうか。


で?

新婦の代理の条件は……処女。

それだけ!?



「何で、新郎と新婦の代理人の条件がこんなに違うの?……てゆーか!これなら、別にリタでもいいやん。」


やばい。

ドキドキが止まらない。

代理でも、イザヤと結婚式って……テンションが上がってきちゃうよ。

ウェディングドレスとか、着るのかな。



わくわくを隠し切れてない私に、イザヤの表情がふっと緩んだ。

「わからないか?そなたがいいのだ。……嫌か?」



嫌なわけない。

でも気恥ずかしい気がして、私はイザヤに背中を向けた。


肩にいた鳥の伊邪耶が、滑り落ちてしまった。