……夜駆けしてきてくれたんだもんね。

眠いよね。


ありがとう。


……イザヤの腕……意外と太い。

胸板も厚くてたくましいし、お肌つるつる。

筋肉の中に、しっかり抱きしめられて……多少窮屈だけど……幸せだ。


こうして、イザヤに抱かれて毎晩眠れるなら、側室でも、いいかも。


……これって……依存?

本当に、私、好きになっちゃったのかな……。



***


翌朝、改めて、イザヤは私にお土産をくれた。

大きな美しい真珠のネックレス。

ほのかにピンクがかった乳白色の輝きは、花珠みたい。


……見るからに、高価そう……。


イザヤは手ずから、つけてくれた。


不安やお小言は飲み込んで、謝意だけを伝えた。

「ありがとう。大切にする。毎日つける。」



するとイザヤは口許をゆるめ、私の両肩に両手を置いた。

そして、おもむろに、かがみ、私の左鎖骨のすぐ下に……口づけた!


ひゃっ!


真珠にキスするのかと、ドキドキ見てたら、そうじゃなかった。

くすぐったくて、ジタバタし始めたら、やっと放してくれた。


……真珠のすぐ横に、濃く赤い小さな跡……。

キスマークだ……。


ひやー。

初めて、キスマークつけられちゃった。


オトナの恋みたい。

これって、毛細血管の内出血なのよね?

数日は、消えないのよね?



「……どうせなら、出かける前につけてほしかったかも。」


そうぼやいたら、抱きしめられてしまった。



あ、イザヤの香りだ。

夕べ、この香りに包まれて……私、本当に幸せだった……。


目を閉じて、そーっと、イザヤの背中に両手を回した。



上から、かすれた声がふってきた。

「そんなかわいいことを、朝から、言うな。」


「……朝から、キスマークつけた人が何言ってんだか。」

くすくす笑いながら、そう言った。


イザヤも笑い出した。



そんな幸せな時が、しばらく続いた。

思えば、イザヤと私の「蜜月」だったのかもしれない。


ただ触れ合い、ハグするだけの、蜜月。

何も考えず、音楽と戯れる、蜜月。


……なぜか、くちびる同士が触れ合うことすらなかったことに、安堵と不満を抱きながらも……それでも私は、ただ、幸せだった。



***


その秋、ひっそりとシーシアは神の花嫁のつとめを終えた。


新しい神の花嫁は賑々しく神宮入りしたが、優秀なシーシアの後任は想像以上につらかったらしい。

何かと比較されることに耐えられなかったらしく、彼女は早々に匙を投げたそうだ。