「うん。待った。待ちくたびた。……宿題、ちゃんとしたよ。」

ほめてほめて、と、私は訴えた。


イザヤは目を細めて微笑みかけ、うなずいた。

「そうか。えらかったな。……婚約者どのが館に来たらしいが……めんどくさい女なのに、そなたは、ちゃんと迎えて、もてなしてくれたそうだな。立派な女主人ぶりだったと執事がほめていたぞ。」

「執事さんが……。」

何だか、くすぐったいような……うれしかった。


「……しかし、まいらを寝込ませるとは……我が婚約者どのの破壊力たるや、計り知れないな。……ティガも、頭を抱えていた。……だいぶ、きっついことになってるようだな。」

苦々しく、イザヤは吐き捨てた。


「ティガ?」

「ああ。そなたが高熱で苦しんでいるとティガが早馬を遣わせてくれた。だから、団をほっぽりだして、独りで夜駆けしてきた。……心配した。」



飾りのない言葉から、真情が溢れている。

掛け値なしの、愛情。

うれしい。


でも、……苦しい。

イザヤの言う「婚約者どの」がシーシア(あのひと)だと、知ってしまった今は……その呼称がいちいち、突き刺さる。


イヤでも考えないわけにはいかなくなってしまった。

イザヤは、シーシアと、結婚する。


私は、……側室……。



なんか、全然、呼称に慣れないけどさ、……結局、愛人なんだよね?

むかし 風に言えば、お妾さん、お手掛けさん、二号さん。


……お父さんが知ったら……嘆かはるかなぁ……。


てか、私、孝義くんの後妻さんにはなりたかったけれど……愛人は、ちょっとなあ……。


まあ、孝義くんは一途なひとだから、絶対こんな状況にはしないだろうけど。

……て、現代日本の価値観を持ち込んじゃ、だめなのかな。




どうやら、イザヤにとっても、シーシアにとっても、どんなにイヤでも、この不幸な結婚は避けられないものみたい。

だったら、仕方ないのよね。


うん、仕方ない。


……お父さん、まいらは、不孝な娘です。

ごめんなさい!!!



覚悟を決めたつもりが、気がつくと、スースーと規則正しい寝息。


イザヤ、寝ちゃった。