ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「そなた、なぜ泣かない?異世界に1人で迷い込んだ年頃の少女なら、普通は手の付けようのないほど泣くだろう。」


私は苦笑して首を傾げて見せた。


イザヤの言う通りだろう。

でも、涙は出そうにない。


「正直、まだよくわからへんから。ここがどこなのか。どんな世界なのか。だから、まだ泣きません。……それに、今のところ、イザヤもティガも、私に危害を加える気はないような気がするから。」


そう言ったら、何となく本当に大丈夫なような気がしてきた。



「イザヤ、カシコイ。」


ゆるんだ私の手の中から這い出た青い鳥の伊邪耶が、へろへろ~っと力なく飛ぶ……というよりは、緩やかに落ちて異世界人のイザヤの足にしがみついてそう言った。


伊邪耶は、こんな時でも、お父さんの低い声をちゃんと真似していた。




「なるほど。こやつ、賢いな。気に入った。」


イザヤは、伊邪耶をつまみ上げて、クッと笑った。



「いざや。腹は減ってないか?……おい。まいら。こやつは、何を食べる?」

異世界人のイザヤは私にそう尋ねた。




「イザヤどの。小鳥より、ヒトの空腹を心配してあげないと。まいら。お腹はすいてませんか?」

まるで宇宙人のような不思議な銀の瞳が優しく私を映す。


「今はけっこうです。あの、今、何時ですか?それに、この部屋……何のお部屋ですか?真っ白過ぎて、落ち着かへんねんけど……。」


ティガにそう言ってから、イザヤに尋ねた。


「私、鞄を持ってへんかった?中に、いざやの餌とおやつが入ってたんやけど。」



……両親と一緒に行動するときには、ハンカチと伊邪耶の餌しか持ち歩いてない。

お財布や手帳もなかったのは、むしろこの状況ではよかったのかもしれない。



「ああ。回収した。これだろ。何かの植物の種かと思ったが。こやつの餌か。」

そう言って、イザヤは私の鞄をゴソゴソ探って、ティガに渡した。


「これはキビ、これはヒエ、これはアワですね。この細長い2つは何の植物ですか?」


ティガの指差したのは、カナリアシードとオーツ麦だった。



すると、イザヤの手におさまっていた伊邪耶がパタパタと青い未熟な羽根をはばたかせた。


「わ!どうした!よせ!……落ちた。」


伊邪耶は、ぺしょっと白い床に落ちてしまった。



半分だけ羽根を広げた伊邪耶は、かわいそうだけど、かわいくて……ヒトのイザヤは、くっくっくっくっと、肩を揺らして笑った。