全てを失っても手に入れたい女がいる 2


「どうして」と質問する魁斗に、涼夜は「全て聞いた訳じゃないんだな?」と苦笑する。

俺の本当の父親が誰かまで教える程、プライドは捨てて無いって事か…

そして、魁斗には
「俺の部屋に入る人間は涼夜と高城さんだけだ。
いくら高城さんが親父に忠誠心を誓っていても、盗聴器なんて取り付けたりしない筈だ」と涼夜は話した。

涼夜の言葉に、自分が行なって来た事全てがバレてると知った魁斗は、膝から崩れるとそのまま土下座をして涼夜に謝罪した。

「…涼夜《おまえ》を恨んでなんかいない…
恨むわけないだろ…?
それどころか…涼夜《おまえ》には感謝さえしてる。親父に言われて、おまえを追いかけてフランスに渡って、モデル事務所にも登録したけど、俺なんかじゃ仕事なんて貰えなくて…
でも…日本に帰る事も出来なくて、野垂れ死ぬのを覚悟してた…
そんな俺を、涼夜《おまえ》は助けてくれた。
感謝さえすれど、恨んでなんていない…」

「・・・・・」

「でも…日本に帰って来て…
暫くして雅さんにこの借用書を見せられた。
なぜ、町金で借りた借用書が雅さんの元に有るか初めは分からなかった。
雅さんからは、利息をつけない代わりに涼夜《おまえ》の様子を教えてくれって頼まれたんだ…
初めは…親として涼夜《おまえ》を心配しての事だと思っていたが、次第に仕事の内容やスケジュール迄教えろと言われる様になって…
断ったら、借金を今すぐ返せって言われて…
でも…そんな金無かったし…
結果的‥涼夜《おまえ》を裏切る事となって…
本当にすまなかった…
許してくれとは言わない…
でも…側に置いてくれないか?
この裏切りの償いをさせて欲しい」

「…償いなんて要らない…
俺の方が恋人役なんて無茶な事頼んでいたんだし、それなりの慰謝料と退職金は払うから…
もう実家に帰れ!」

「涼夜…」

涼夜は自分の荷物を持つと、「金は銀行に振り込む。お疲れ!」と言って控え室を出て行った。