全てを失っても手に入れたい女がいる 2


涼夜が弁護士に作らせていた書類に、涼夜と雅は互いにサインをする。
そして弁護士はその書類を持って、手続きに入ると言って退室して行った。

「お前の用意周到さには恐れ入ったよ‥?」と雅が苦笑するのを見て、涼夜は嬉しさを顔に出さない様に平常心を装っていた。

「僕はお父様と違って、本当に欲しい物は自分を犠牲にしてでも必ず手に入れますよ?」と涼夜は言って、秘書が用意してくれた紅茶へ花砂糖を入れ味わっていた。

「お前のそう言うところ、母親にそっくりだよ」

「‥‥褒め言葉だと思っておきますよ?」と言って微笑む涼夜に対して、雅の顔は苦虫を噛み潰した様に歪んでいた。

そんな不穏な様相の中、約束の時間より1時間も早く双葉銀行鮎頭取が訪れた。
一瞬不快感を見せた雅だが、頭取の後ろにジュラミンケースを持った男を見て、雅の顔色は一瞬にして変わり、鮎頭取を笑顔で迎えた。

頭取の秘書はジュラミンケースをテーブルに置くと、鮎頭取がケースを開けた。するとそこには帯の付いた新札が綺麗に並んでいた。
それを見た雅は驚きを隠せない様で、目を張りゴクリと唾を飲んだ。

「ニ億用意して来た」と言う頭取に、「融資をお願いしたのは一億と聞いてましたが?」と涼夜は言う。

「これは融資ではなく、結納金だと思って貰って構わない」と鮎頭取は言う。

結納金が二億‥?
ある所にはあるもんだ‥
流石双葉銀行の頭取だ。

「‥ですが‥二億と言うのは‥余りにも‥」

「大切な娘婿の実家の為だ、この位大した事はない。
それより涼夜君、妃都美は鮎家の一人娘だ。
君には、鮎家に婿養子に入って貰いたいのだが、承知してくれるだろか?」

鮎頭取の言葉に、涼夜は一瞬雅を見て考えた。

養子‥
予定外の話だが‥それも悪くないかもしれない。
この人をドン底に落としてやる為に‥

「お父様、鮎家へ婿養子に入っても構いませんよね?」と言う涼夜に、雅は驚きを顔に出していた。

「涼夜‥お前!?」

まさか、自分《雅》の子供も引き受けただけでなく、婿養子にまで入ると言うと思わなかった雅は、驚きを隠せない様だった。

「頭取、婿養子に入るのは構いませんが、暫くの間だけでも、妃都美さんと黒羽家の屋敷で過ごさせて貰えないでしょうか?
いくら使用人が居ると言っても、いきなり父一人にするのは心配ですから‥
ダメでしょうか?」

「まぁそうだな‥黒羽さんは奥さんを早く亡くしてるから、大切な息子まで手放すとなると寂しいだろう?
暫くは其方の屋敷に住むと良い」

「有難うございます。
じゃ、仕事がありますので、僕はここで失礼します
鮎さんじゃなかった、お義父さん結婚式については、またご相談に伺わせて頂きます」と言って涼夜は部屋を出た。