「やぁ申し訳ない。娘の支度が遅くなって…
ずいぶん待たせたかな?」
「いえ、私どもも今来たばかりです。
さぁ、上に参りましょうか?」
頭取の言葉に、涼夜の胸ぐらを掴んでいた雅の手は離れ、先ほどとはうってかわって、雅は笑顔で見合い相手であり、融資先である双葉銀行頭取、鮎親子を迎えた。
そして、雅が予約していたレストランへと4人は向かった。
頭取からは、娘である鮎 妃都美 (23)は、N大学医学部4年だと涼夜は紹介された。
「妃都美さんは、N大学の医学部に進まれたと言う事は、将来お医者様になられるんですか?」
「まさかぁ?
今時、医学部へ進んだからと言って、医師になる者ばかりではないですわ!
雇われる医師だと儲からないし、かと言って開業医も、ミスして訴えられたら終わりですから?」
儲からないから医者にならない…?
ミスして訴えられたら困る…?
「そうですか…お医者様も大変ですね?」
…じゃ初めから医学部なんて行かなきゃ良いのに…
女性の医学部への門は狭いと言うのに、あんたのお陰で、一人の女性が医師になる夢を、奪われたかも知れないんだぞ?
「では、何か研究を?」
「いいえ。特に何をと言うものは無かったんですが、当時は仲の良かった先輩を追いかけまして」
はぁ!?
先輩を追いかけて…?
好きな男を追いかけてってことか?
まぁそれだけ頭が良かったんだろうな?
「妃都美さんは、賢く物知りでいらっしゃる。
会社へ尋ねていらした時は、お話しするのがいつも楽しくて、時が経つのを忘れるくらいですよ?」
「いいえ、わたしくより、黒羽さんの方が色々な事ご存知で、わたくしの方こそ黒羽さんとのお話が楽しくて、私…黒羽さんのお仕事のお邪魔になって、ませんでしょうか?」
雅の言葉に、照れながらも妃都美は否定しつつ、二人の関係が良好だと示した。
へぇー、親父も融資をして貰える様に、自分でも動いてはいたんだ?
「娘は昔から頭の切れる男が好みで、N大学の医学部へも、仲の良い先輩が居るからどうしても入りたいと言うものでね?
可愛い娘ですから、親としてはと思い、色々な方に御尽力頂きましたよ!ワハハハ」
おいおい…それって…
裏の話じゃないのか?
こんな公の場で話して良い話なのかよ?
頭取の巫山戯た自慢げな話に、呆れて涼夜は言葉を失っていた。
「ところで、先程テレビを観させてもらったが、涼夜君は、お父様の会社を離れ迫さんと仕事するのかな?」
「いえ。blackbirdから離れるなど考えていません。
今はまだ、モデルと言うよりデザイナーとして勉強して行きたいので…色々な方のお力をお借りして、父の様なデザイナーになりたいと思ってます」
「なら、私の銀行が融資をしても、損する事は無いのかな?」
「モデル業はそんなに長く出来るものでは無いと思ったますので、これからは父の様なデザイナーとして生きて行きたいと思っています」
「そうか?
君のデザインする洋服は、国内外の若い女性に人気だと聞いてる。
君がいるなら、何も心配はない様だな?」

