「源君だけではなく、副社長にも色目使っているビッチ女とも言われていたわよ? ……副社長、あなたのことを『瑠璃ちゃん』って呼ぶんですって?」

「それはっ……!」

 ずっと呼ばれているから言葉が続かない。

「なに? もしかして木名瀬さんってば、副社長と付き合っているわけ?」

「……そんなわけないでしょ」

 一瞬ギクッと身体が反応してしまい、慌てて否定したものの、細川さんの目が光った。

「あら、冷静沈着の木名瀬さんが狼狽えているなんて珍しい。 でもそう考えれば辻褄が合うわよね。恋人がいるから源君の誘いにのらないって」

「だから違うって言っているでしょ?」

 荷物を手に席を立つと、すかさず細川さんも私の後に続く。

「だったらはっきり言えばいいじゃない。私には付き合っている人がいるから無理だって。そう言えばさすがにもう誘ってこないでしょ」

「本当に違うから」

「じゃあ嘘も方便でいいじゃない」

 廊下に出たところで回り込み、私の前に立たれ足を止めた。

「そうでもしなきゃ、深刻な事態になりかねないわよ? 女の嫉妬って怖いんだから」

 人差し指を立てながら言われ、ゴクリと生唾を飲み込む。

 女が恐ろしいことは、学生時代から身をもって知っていたつもりだけど、恋愛が絡んだ嫉妬という恐ろしさは未知数だ。