すぐに重役のひとりに突っ込まれるものの、副社長は自然に答える。するとあれほど責め立ててきた重役たちは、揃って口を結んだ。

「僕の結婚となれば、面倒なことが多いんです。なのでこのお話は、もうしばらくここだけに留めておいてくださると助かります。いずれ時期がきましたら、正式に発表いたしますので」

 副社長の話を聞き、社長が口を開いた。

「ではどうして私の見合い話を受けると言ったんだね?」

 そうだよ、副社長はなんて答えるつもりなの? 建前上って言っていたけれど、本当の目的はなに?
 緊張がはしる中、室内にある人物の声が響いた。

「それは私から話そう」

 すぐに誰もが視線を向けた先にいたのは、ニューヨーク本社にいるはずの東雲社長だった。
 どうして東雲社長がここに?

 混乱する中、副社長はホッとした声で言った。

「遅いよ、父さん」

「悪い、空港からの道が混雑していてな」

 そう言うと東雲社長はこちらに近づいてくる。そして私たちの前で足を止めると、優しく目を細めた。

「久しぶりだな、木名瀬君」

「あ……お久しぶりです、東雲社長」