「ありがとうございます…。聞いてくれて…声、掛けてくれて…」


『別に。時間があったから。じゃあ』


「あっ…名前…っ!!」


「…聞きたかったんだけどなぁ…」



あたしの小さい声なんて届く筈もなく、彼は振り向きもせずにスタスタと歩いて行ってしまった。


凛とした横顔とサラサラな黒髪が頭から離れないよ。


どこの誰だか知らない彼が頭の中を埋め尽くす。


「…帰ろっと。」


もう、本当に誰なんだろう。


あんなに冷え切っていた心が、ポカポカする。