無邪気な彼女の恋模様


波多野さんの携帯に表示されていた名前は“ちなみ”だった。
あのときはちなみさんから掛けてきていた。
これって波多野さんが未練があるというより、お互い未練があるってことじゃないの?
お互いまだ好きなんじゃ───。
だとしたら私の出る幕はない。
どうしよう。
どうしよう。

「百瀬さん、百瀬さーん。」

「あ、すみません。」

何度も木村さんに名前を呼ばれていたらしい。
とにかく落ち着かなくちゃ。
ここは会社なんだから。

「大丈夫?」

「大丈夫です。」

震えないように力を入れると、木村さんが突然私の目尻を拭った。

「大丈夫じゃないでしょ。」

「あ。」

私は慌てて目頭を押さえる。
まさか涙が出ているなんて気付かなかった。
落ち着かなくちゃ。
落ち着かなくちゃ。

「百瀬さん。」

ふわりと良い香りがしたかと思うと、私は木村さんに抱きしめられていた。

「いつでも俺のところにおいでよ。」

耳元で優しく囁かれる声に、私は目を見張った。

木村さん…?