その頃から、先生に、
「思ったことを書き出してごらん?」
と言われるようになった。

 わたしは思ったことを、思ったままに書きだした。

 始めは抽象的で、比喩表現の多い、遠まわしな感じの詩を書いていた。書いた詩はワープロで打ち込み、感熱紙に印刷して、ファイルにとじていった。

 それを、週1回の受診のときに先生に読ませていた。先生は、
「中原中也の詩に似ているね。中原中也、知ってる?」
と聞いた。
「知らない。」
と言うと、その年の誕生日に、プレゼントと言って、中原中也の詩集をくれた。

 読んでみても、どこが似ているのかはわからなかったが、わたし好みの詩集だったので、今でも大切にとってある。

 わたしの詩集は3年ほどで、500を超えた。300に達する頃、先生から、提案された。
「この詩集、何冊か病院に置いていい?」
 わたしは、
「いいよー。でも、こんなん読む人おるんかね?」
「多分共感できる人は多いと思うよ。」
「まぁ、いいよ。」
「ありがとう。」

 そして…わたしの書いた詩は結構な評判だったらしい。

「これ誰が書いたん?」
と聞く人が多くいたらしい。
「他の患者さんだよ。」
先生は、曖昧に答えてくれたらしい。

 わたしに見えていた世界を認められたような気がして、わたしは嬉しかった。
 
 その話を青田さんにすると、
「わたしも読んでみたい!」
と言うので、持って行ってみると、一通りよんで、青田さんは言った。
「この中に1つだけ好きなのがあるの。わかる?」
と言われた。

わたしは1つを選び、
「これ?」
と聞くと、青田さんは首を振り、別のページを開いて見せた。
「これなんだけど、なんででしょう?」

わたしは、しばらく悩んで、
「……前半明るいから?」
と答える。しかし、
「んー…ちょっと違うなぁ…。これだけ、前半に本音が書いてある様な気がして…。愁ちゃんがほんとにしたいことだったり、こんな風だったらなぁ…みたいなことが、書いてあるとおもうんだけど。」
と言われた。
  
「うーん…そうなのかなぁ…、あたし思ったままに
書いただけだからわかんないけど…。」
というと、青田さんは笑って、
「愁ちゃんが気づいてないだけだよ。」
と言った。

 その時はまだ、わかっていなかった。青田さんの言っている意味も、わたしが、何を求めているのかも………。