AM・3:00


日を跨いでも救助は来なかった。

僕たちは体力を温存する為、真夜中の時点でとりあえず仮眠を取ることに決めた。

が、こんな状況では目が冴えていくら経っても眠れない。

それは他の三人も同じらしく、暗闇の中で起き出して何やらゴソゴソしているのが代わる代わる聞こえてくる。

結局、綾瀬が眠れないし暗闇が怖いと駄々をこね始めたので、僕たちは仮眠を諦めて電気をつけた。

三時間ぶりに見る三人の表情はどことなく落ち着かない様子だった。

けれど、僕がいくら『体調が悪いの?』と問いかけても、


『大丈夫だ、ほっといてくれ』

『わ、私はもう平気だもん!』

『私も大丈夫ですから……ご心配ありがとう』


と三者三様に否定されてしまう。

僕は悩んだ挙句、あることに気付いた。

「も、もしかして三人ともその……トイレを我慢してるから様子が変なの? 僕も実はさっきからずっと我慢してるんだけど」



……微妙な沈黙が辺りを包み込んだ。

やっぱりこれは言わない方が良かっただろうか……僕が後悔したその時、秋人が急に吹き出してから少し気まずそうに答えた。

「プッ……やっぱりお前は相変わらずだな、勇樹」

「え、何が⁉」

「少なくとも俺はいつも通りだし……その、トイレを我慢しているのはお前だけだ」

「そ、そうだね……」

「そういうことじゃ、ないです……」

「え⁉ 三人とも平気なの⁉」



仰天する僕の肩を、何故か秋人が同情するようにポンと叩いた。

「平気じゃない。お前以外はさっき仮眠を取ってた時、こっそり教室のカーテンの陰でゴミ袋にすませた。気づいてないのはお前だけだ」

「「ええっ⁉ そうだったの⁉」」

「何で綾瀬がハモるんだよ……」



秋人のツッコミに綾瀬が答える。

「わ、私は誰にもバレてないと思ってたし……勇樹と同じで他の二人もしていたなんて気づかなかった」

「も、もういいでしょう? その話はこの辺で……」



しどろもどろで説明する綾瀬と羞恥のあまり顔を真っ赤にする神崎さんを交互に見て、秋人はため息を吐き――突然大声で笑った。

「アッハハハハ! ……なんかお前ら見てたら悩むのが馬鹿らしくなってきたよ」

「な、何よ~! 昼間は秋人君だって取り乱してたくせに!」

「わ、私も同じにしないで下さいよぉ」

「も、申し訳ございません神崎さん! 年頃のご麗人相手に無粋な話をしてしまい何とお詫びしたものか……!」



すっかり元気になって騒がしくなった三人を前に、僕も笑顔を浮かべた。

「そっか! それじゃあ僕も行ってくるね、もう我慢の限界だし!」

「うん! ……って、バカ! そういうことは一々申告しなくていいのっ!」



綾瀬の叫び声を背に、僕は笑顔の仮面を貼り付けたままその場から立つ。



――その時には僕はもう気づいていたんだ。
トイレなんて馬鹿馬鹿しくなるくらい、致命的な問題点に。