雪が降りしきる夜。

僕は暗闇の中で黙々とパソコンの画面に文字を打ち込んでいた。

季節は十二月――高校入学から八カ月、奈波と別れてからちょうど二年。

あの屋上での出来事の後、僕は全てと決別するつもりだった。

体育館まで走って教師に助けを乞い、綾瀬が救急車に運ばれていったのを見送った僕は二度とこの学校へ、綾瀬のいる日常へは戻れないと思っていた。

綾瀬の命さえ諦めれば、自分の殺害を隠蔽することも出来ただろう。だが僕はその選択をしなかった。

最後の最後に奈波のことを思い出したのもあったが……きっと、僕も心のどこかでまだ綾瀬を『友達』だと思っていたのだと思う。

幸い綾瀬は一命を取り止め、全治一か月と判断された。

何があったか聞かれても、彼女は頑なに話すことを拒否したらしい。

対して、警察の事情聴取で僕は完全に私怨で彼女を殺そうとしたと語った。

嘘ではない。どうせ『組織』がどうこう言っても信じてもらえないだろうし――僕が綾瀬を心の底から憎んで殺そうとしたことは事実なのだから。

ところが一週間後、僕は『証拠不十分』としてまたしてもあっけなく釈放されてしまった。

また裏で良からぬ力が働いたのか、それともどこかでまだケニー先生が僕のことを見ているのか……それは分からないが、とにかく僕はまたしても罰してもらえなかった。

僕はまたあの頃の様に死ぬことばかり考える様になった。

学校に戻れても全く嬉しくなかったし、クラスメート達は全員どこか遠くの世界の人間に見えた。

桜が散り始めた五月のある日。

僕はまたあの屋上にやってきて、フェンスから下を見下ろしていた。

ゆっくりと足をフェンスにかけようとしたその時、後ろから聞き慣れた声がした。



「それで何か解決するの?」