目を開けると――綾瀬が目の前で涙を流して僕を見つめていた。

「勇、樹……」



彼女は笑顔を浮かべ、昔のあの小動物の様な仕草で僅かに首を傾げる。

一迅の桜の花びらが吹き乱れ、僕と彼女の間を通り過ぎて行った。

下からは入学式に向かう生徒たちの快活な声がまばらに聞こえてくる。もう間もなく式が始まる頃合いだろうか。

そんな彼らを祝福する様な青空の下で――僕の両手は、尚も綾瀬の首を絞め付けていた。

彼女はただ抵抗することなく、全てを受け入れるような笑顔で僕に微笑みかけるだけ。

僕は自分が何をしているのか理解していて、その上で綾瀬のことを殺そうとしていた。

きっと『彼』も僕が『終わらせる』と言った意味を分かっていた上で僕に体を返した。

「……ほら、勇樹も笑ってよ」



綾瀬はそう言ってまた微笑みかける。気遣いが上手だったあの盲目の少女そっくりの笑顔で。

「私はちっとも悲しくなんかないよ――むしろ嬉しいの」



そうか……それならせめて楽に逝かせてあげないと。

僕が両手に更に力を込めかけた、その時。

「勇樹」



もう一度、綾瀬が僕の名を呼んだ。

最後の儚い命を散らす様に、締め付けられた喉で精一杯息を吸って言の葉を吐き出す。

「最後に一つだけ……伝えたいことがあるの……私は確かに……演技で勇樹に近づいた……だけど」



「途中からは勇樹のことを……本当の友達だと思ってたよ」