綾瀬の言葉と共に、世界がガラスの破片となって砕け散る。

少しずつ揺らぎ始めた視界の中で、俺はようやく悟る。

もしかしたら……俺もきっと、こいつと同じなのかもしれない。

あの事件でもし俺が暴走しなければ、勇樹は壊れずに済んだ。

俺という存在を封じ込める為に、必死に勇樹に書き続けることを強いた。

綾瀬にしたって、確かに彼女は金に目が眩んで友人を壊したクズ野郎だ。

だが、考えてみればここで俺に事件の真相を全て話す必要はなかった。

もしそれが彼女なりの贖罪だとしたら? あの事件の後、友人を殺したと勘違いした勇樹と同じくらい罪悪感でもがき苦しんだのだとしたら?



そう――きっと綾瀬も俺も、ずっと勇樹に償いがしたかったんだ。



「お前は真実を正面から見据える勇気があるのか?」

「うん」

「俺に殺された方がマシだったって後悔しても知らねえぞ?」

「その時は、仕方ないよ。だから――最後は勇樹に託してあげて欲しい」



綾瀬の目に光を宿して答える。

もしそれがただの希望の光だったなら、俺は躊躇なく綾瀬の首をニワトリの様にへし折っていただろう。

だが違う。彼女の目に映っているのは覚悟の光。

それを見届けると、俺は静かに目を閉じた。

視界が暗転し、暗闇の向こうから勇樹が歩いてくる。

俺はすれ違い様に口を開きかけて――結局何も言わなかった。

俺は心の中で雨宮勇樹と一度も対話などしたことない。

そんな面倒臭いお約束展開をするくらいなら、さっさと体を奪った方が早かったからだ。

そんな俺が、今更奴と口を交わす権利など――

「ありがとう」



俺は驚いて、振り向いた。

「後は僕が終わらせるから」



そう言って立ち去る勇樹に、俺はニヤリと笑みを返した。

「ケッ……お前の好きにしろ」



「俺が今まで好き放題してきたようによ」