何だ……? コイツ、いきなり何を言い出すんだ?

「今まで必死に頑張って来たのは貴方じゃない! 私たちを殺した罪悪感に苦しんだのも貴方じゃない!」

「ッ!」

「奈波さんと一つの世界を作りあげたのも貴方じゃない! 全部勇樹がやったことでしょ⁉ それなのに最後だけ出てきて何もかもブチ壊す権利なんて貴方にはない!」



涙交じりの綾瀬の言霊には、俺に負けないくらいの感情があった。

だがその程度臆する俺じゃない……いや、お前なんかに臆してたまるか……!

「てめえに何が分かるってんだよ⁉ 俺はずっと勇樹と一緒に生きてきた! アイツの苦しみを誰よりも近くで見てきた! だから――」

「……復讐して、あげたいんだよね?」



今度こそ、俺の抗弁が止まる。

綾瀬は苦痛を物ともせず、俺を茶色の瞳で真っすぐに見据える。

「それは分かってるよ。今の貴方は欲望だけの怪物じゃない。ちゃんと勇樹の痛みが分かっている、だからこそ奈波さんの姿をして自分勝手なことをいう私が許せないんでしょう?」

「違う……俺は怪物だ……あの医者に無理やり作られ、お前らに無理やり起こされた化け物だ……!」



自分の言葉に反して、俺の手は未だにこの女にとどめを刺す気配はない。

確かに俺はさっき感じてしまった。俺と勇樹から何もかも奪った奴への怒りと、奈波の偽物を噛み砕きたいという思いを。

これがもし百パーセント俺のエゴだったら、絶対にそんなことは思わないはずだ。

「そうだよね……だから本当は貴方にも謝らなきゃいけない」


やめろ……


「ごめんなさい」


俺に謝るな……


「そしてありがとう」


俺に感謝するな……



「今まで勇樹を見守ってくれて」