「やっぱり怒ってるよね」



綾瀬は黙り込む僕を覗き込んで言う。

「こんな話聞かされて怒らない人はいないもん。でも、私たちの気持ちも分かって欲しい。勇樹にも、私たちにも最初から何も選ぶ権利はなかった。その点はお互い同じはずでしょう?」

「……僕があの後どうなったか、綾瀬は知ってるか?」



僕が呟くと、綾瀬は視線を逸らした。

「さあ、知るわけないじゃない。当然勇樹とは一切接触を禁じられていたし、調べることも許されなかったんだから」

「僕はあの後、担当の精神科医に僕の病気が作り物であることを暴露され、とあるアプリを渡された」



僕は、聞かれてもいないのに彼女に語り始めた。

「アプリの名は『ユートピアート』。普通のSNSにオーバテクノロジーを詰め込んだ上位互換アプリと思ってくれればいい。僕はその医者にある少女と引き合わされ、二人でそのアプリで創作活動を行うよう誘導された。僕は小説を、彼女は歌のカバーを完成させてそのアプリの先駆者になり……今も、僕はそのアプリのライター部門のトップ作家として活動している」

「そのアプリ……噂なら聞いたことある。リリースから一年ちょっとだし完全招待制だからまだユーザーは少ないけど、いずれは全てのSNSの頂点に立つだろうって……もしかして一緒に先駆者になった少女っていうのが、さっき叫んでた奈波っていう子?」



僕が黙って頷くと……綾瀬は僕と再会して初めて、本物の輝くような笑顔を浮かべた。

「おめでとう! 私も結局の組織の計画は分からずじまいだったけど、今やっと理解出来た気がする。組織は勇樹のことを、同じように心を病んだ人々の先導者にする為にそのアプリを渡したんだよ! もちろんその為に勇樹に許されないことをしたけど……でも今、もし勇樹と奈波さんが迷える人々の希望になっているのなら――」



彼女の言葉はそこで途切れた。



なぜなら、僕の右手が彼女の細い首筋をしっかりと掴んでいたからだ。