彼女は屋上のフェンス越しに外を見下ろしていた。

風になびく銀髪は昔より少し伸びただろうか。

背も少し高くなっていたので遠目からは××と断定出来なかったが、さっき僕の声に反応してここまで逃げてきたということが全てを物語っていた。

「××……どうして逃げるの?」



流石に三階分も階段を駆け上がったせいで、息が苦しい。

それでも僕は××がそこにいてくれるだけで、高校入学なんてどうでもいいくらい嬉しかった。

「僕は××に歌い手をやめて欲しくなかった。だけどもう活動をしていない以上、僕と一緒にいちゃいけない理由はないだろ?」



彼女は相変わらず僕を見ようとしない。

屋上まで舞い上がった桜が銀髪に張り付いて、それは可愛らしい髪飾りの様だった。

「××。ここでもう一度失った時間をやり直そう。活動者としてではなく、二人の生徒として」



僕が決然と告げると、彼女はゆっくりと振り向き――



「ごめん勇樹。『奈波』って誰のこと?」



冬峰奈波とは全く違う、透き通るような茶色の瞳が僕を見つめた。

「え……?」



混乱する僕の前で、謎の少女はただ静かに答えを待つ。

いや……謎の少女じゃない。僕は彼女のことを知っている――



「綾、瀬……なのか……?」