学校に近づくにつれ、新入生たちの喧騒が大きくなってきた。

新しい生活に期待し目を輝かせる者。不安で落ち着きなく辺りを見渡す者。

僕はそのどちらにも該当しなかった。

この約一年半の間、僕の居場所はずっとユートピアートの中にあった。

現実世界はそんな理想郷の添え物に過ぎず、奈波が消えてから友達も恋人も出来なかった。

もちろんユートピアート内の活動者仲間はいる。

僕が『許可』ボタンを押してしまった後、僕と奈波の世界は一夜にして激変した。

僕の小説のPV数、奈波のカバー曲の再生数が一夜にして大幅に増加し、フォロワーも一瞬にして千人を超えた。

僕に招待された大勢のユートピアートユーザーが、唯一存在する僕と奈波の作品を一斉に閲覧したからだ。

おかげで一夜にして、僕は大量のピアとアプリ内での知名度を獲得した。

もちろんド素人の作品なので厳しいコメントも多かったが、それでも大半の人々が僕と奈波を先駆者として認め今後の成長を応援してくれた。

数日後奈波が消えてしまった後もそれは変わることなく、僕は今でも一心不乱に作成を創り続けている。

僕と同じく、心に傷を負った仲間たち……

ユートピアートに溢れている、そんな悩める少年少女たちの心に少しでも響く作品を書く為に。

それでもきっと、この虚無感が埋まることは一生ないのかもしれない。

高校の入学式という門出で、こんなに賑わっている今でさえも――僕は彼女の面影を探してしまっているのだから。

……ドンッ!

「いてっ!」

「あ、すみません!」

「新入生か? 気を付けろよ!」



つい不注意で上級生にぶつかってしまった僕は咄嗟に頭を下げてから顔を上げ――

その肩越しに見えた人物に目がくぎ付けになった。

「どうした? 俺の後ろに背後霊でも見えるか?」



上級生のどうでもいい冗談も全く頭を素通りしていく。

嘘だ。あり得ない。

でも、もし今見ているものが背後霊でも幻覚でもなかったのなら――僕は、神様の存在を信じてもいいのだろうか?



「――××!」