「……勇樹」
僕が目を覚ますと、そこは花園に包まれた小さな丘だった。
雲一つない澄み切った青空と、甘美な花の芳香。
木々を揺らすそよ風と、二人を包む穏やかな木漏れ日。
「ここは……?」
僕が体を起こすと、少し先の木の根元で奈波が立っていた。
先程のコート姿と打って変わって、麦わら帽子に薄手のワンピースと夏服の立ち姿がとても似合っていた。
僕は立ち上がると、ゆっくり彼女に歩み寄った。
「奈波……ここはどこ?」
彼女は、揺れる百合の様に笑うだけで何も答えない。
「奈波……ねえ答えてよ」
彼女は背を向けると、木の向こうに向かって歩き出した。
「奈波!」
僕は駆け寄って彼女の肩を掴み……だけど、その手は空を切った。
そして気が付けば――あんなに青かった空は無数の画面で埋め尽くされていて、見知らぬ誰かが映ったその画面から吹き付ける風で草花はあっという間に千切れ飛んで――
そんな嵐の様に渦巻く荒廃した世界の前で、半透明になった奈波は振り返って……僕に寂しげな笑みを浮かべながらこちらに手を伸ばした。
「ずっと一緒にいたかった――この世界は勇樹と私さえいれば、それだけで」
それだけで、の後はもう風の音で聞き取れなかった。
僕は今にも消え入りそうな彼女の手を掴もうとして――でももうその時には奈波はどこにもいなかった。
その時、僕は初めて気づく。
もしかして僕はまた一人……それも、この世で最も大切な人を殺めてしまったのではないかと。
「奈波ィィッ!」
吹き荒れる砂漠の中で、豪風と共に僕の号哭だけがいつまでも鳴り響いていた。
僕が目を覚ますと、そこは花園に包まれた小さな丘だった。
雲一つない澄み切った青空と、甘美な花の芳香。
木々を揺らすそよ風と、二人を包む穏やかな木漏れ日。
「ここは……?」
僕が体を起こすと、少し先の木の根元で奈波が立っていた。
先程のコート姿と打って変わって、麦わら帽子に薄手のワンピースと夏服の立ち姿がとても似合っていた。
僕は立ち上がると、ゆっくり彼女に歩み寄った。
「奈波……ここはどこ?」
彼女は、揺れる百合の様に笑うだけで何も答えない。
「奈波……ねえ答えてよ」
彼女は背を向けると、木の向こうに向かって歩き出した。
「奈波!」
僕は駆け寄って彼女の肩を掴み……だけど、その手は空を切った。
そして気が付けば――あんなに青かった空は無数の画面で埋め尽くされていて、見知らぬ誰かが映ったその画面から吹き付ける風で草花はあっという間に千切れ飛んで――
そんな嵐の様に渦巻く荒廃した世界の前で、半透明になった奈波は振り返って……僕に寂しげな笑みを浮かべながらこちらに手を伸ばした。
「ずっと一緒にいたかった――この世界は勇樹と私さえいれば、それだけで」
それだけで、の後はもう風の音で聞き取れなかった。
僕は今にも消え入りそうな彼女の手を掴もうとして――でももうその時には奈波はどこにもいなかった。
その時、僕は初めて気づく。
もしかして僕はまた一人……それも、この世で最も大切な人を殺めてしまったのではないかと。
「奈波ィィッ!」
吹き荒れる砂漠の中で、豪風と共に僕の号哭だけがいつまでも鳴り響いていた。



