言っている意味が分からない。

横を見ると、流石に奈波も困惑の表情を浮かべていたが、やがて僕の代わりに言葉を発した。

「ケニー先生。私たちをずっと見ていたんですか?」

「当然さ。もちろん直接コンタクトはしないが、組織の者はこの一か月ずっと君たちをリアルとネットの両方で監視していた」

「組織?」

「おっと口が滑ったね。今のは忘れてくれ」



僕は追求しようとしたが、ケニー先生はそれを強引に遮る。

「君たちは実によく頑張った。お互いに深刻なPTSD……心的外傷を抱え、彼女に至っては盲目というハンディキャップを背負いながらも真摯に活動に取り組んだ。この際大事なのは実際の作品の良し悪しではなく、初投稿に至るまでの強い意志と行動力だ。君たち二人はその点が高く評価され適合者だと判断された」

「適合者? 何のことです?」

「今二人に送ったものを見れば分かる」



僕と奈波のスマホに、同時にケニー先生からと思しき匿名のメールが届く。

開くと画面には『貴方はユートピアート招待権限を移譲されました』と表記されていた。

更にその下に『招待希望者リストが届いています』という文字並び、『許可』と『否認』の二つのボタン。

僕が奈波のスマホを代わりに操作し、同じ内容であることを確認すると彼女に何が書かれているか伝える。

奈波は瞬時に全てを理解したようだった。

「ケニー先生は、私たちに選べというんですね」

「選ぶ? どういうこと?」



ケニー先生は、スマホ越しに耳障りな笑い声を上げた。

「今回も君より彼女の方が察しが良かったみたいだね。その通り、君たちは選ばなくてはならない。私たちが集めたその数万人の招待希望者を……ユートピアートに受け入れるかどうかを」

「す、数万人⁉ いつの間にそんな」

「君たちが適合者になることを想定してかねてから集めていたんだよ。もし適合者になれなければ、君たちをアプリから抹消して他の適合者を探すつもりだった」

「つまり、この『許可』のボタンを押せばユートピアートに一気にユーザーがなだれ込んで……」



「そして先駆者である君たちの作品は大量に閲覧されるだろう。もちろんリピもがっぽり入るって寸法さ」