「でもいずれはたくさんの人が見てくれるようになる。その時の為にも、もっともっと頑張ってクオリティを上げないと」



僕は決意を新たにそう呟く。

「――私は、いっそこのままでも……」

「え? なんて言ったの?」

「……ううん。何でもない」



冬峰さんは笑ってスマホをポケットにしまった。

彼女が何と言ったのか気になったが、僕は追及するのをなぜか躊躇ってしまう。

今のこの穏やかな気分に、水を差したくないのかもしれない。

「そろそろ帰ろうか」

「そうね。もうすっかり暗くなっちゃたし」

「え? 見えるの?」

「ううん、でも外から夜の香りがするから」

「夜の香り……ダメだ、僕には全然分かんないや」

「そう? 何ていうかこう……とっても優しくて綺麗な香りよ」



そんな会話をしながら僕と冬峰さんは連れ立って病院を出る。

季節はもうすっかり冬の半ばに差し掛かっていて、帰る道すがら綿の様な雪が降り始めて僕らの服を白く染めた。

「もうすっかり冬だね」



白い息越しに話しかけると、冬峰さんは一瞬こちらに顔を向けて……ギュッと小さな手で僕の手を握った。

「わっ、冬峰さん……冷たっ⁉」

「ちょっと! その反応は酷くない?」

「いやそうじゃなくてその……こういうの慣れてないから」



僕が白状すると、冬峰さんは月明りの下で少し悪戯っぽく笑う。

でも彼女の手が冷えているのも事実だったので、僕が強く握り直してあげると冬峰さんがドキッとした表情を浮かべた。

「どうしたの? 今度は冬峰さんの方が様子おかしいけど?」

「だ、だって、これって恋人繋ぎ……」

「え、何? こうやって握った方が暖かいでしょ?」

「もう! もしかして雨宮君は目の代わりに耳が不自由なんじゃないの⁉」

「えー! 何か納得いかない……」



いつも物静かでクールな冬峰さんのこんな顔は初めて見た。

恋愛経験が皆無な僕にとってこういう状況は初めてで、どうしていいのかさっぱりだった。

綾瀬や神崎さんみたいに女の子の友達はいたけど――



「…………ッ」