一か月後。僕と冬峰さんは、同じタイミングで自作小説とカバー楽曲動画をそれぞれ投稿した。

投稿の瞬間、僕と冬峰さんは二人が初めて出会った病院の待合室にいた。

投稿完了画面が表示され、作品がアプリ内のノベルジャンルと音楽ジャンルに掲載されるのを見届けて僕たちは大きくため息を吐いた。

もちろん、喜びと達成感に満ち溢れたため息だ。

「やっと……終わったね」



僕が投稿したのは、自分と同じ中学生が三人の友達を助ける為奮闘する、ありふれた学園モノ。

初投稿な上に自己投影している部分が多くて完成度は低いけど、それでもやりきったこと自体に意味があると感じた。

「終わった、じゃなくてこれからでしょ?」



一方、冬峰さんが投稿したカバーは今流行りの女性バラード曲だ。

歌の上手さは言わずもがな、彼女の声質と会った楽曲を選んだだけあって、普通に大手動画サイトに投稿しても伸びそうなほどのクオリティだった。

「そうだね……それにしても、小説を書くのがこんなに大変だと思わなかった」

「私も。歌うだけなら目が見えなくても出来たけど……機材の準備や編集関係は、雨宮君がいなかったら絶対出来なかった」

「僕だって、そもそも冬峰さんがいなかったらこうして生きていることさえなかった」



二人の目と目が通じ合う。

例え目は見えていなくても、今の彼女ならきっと僕が『視えて』いる。そんな気がした。

「……って言っても、僕たちの作品を見てくれる人はまだ誰もいないんだけどね」



僕が照れ隠しに顔を背けながら言うと、彼女もおかしそうに笑った。

「そうなんだよね。だって、この世界にはまだ私たち二人しかいないんだもの」
あれからケニー先生はまだ全く動きを見せていない。



病院で会うこともなければメールが届くこともなく、ユートピアートに新しいユーザーが招待されてもいないから僕と冬峰さん以外にアカウントは存在しない。

単純に僕たちに準備期間を与えているのかもしれないが、今はそんなことすらどうでも良かった。



何だか――この世界に僕と冬峰さんしかいない、という言葉が妙に心地よかった。