「ええ」

「今はもう僕たちにはこれしかありません」

「大きな力には大きな代償が伴う。君たちがしようとしていることはこの『理想郷』における先駆者になるということだ。その覚悟はあるかい?」

「覚悟なら……とっくに先生が僕たちに植え付けたじゃないですか」



僕が挑発的に返すと、ケニー先生は僕の瞳の奥をジッと見つめる。

「生半可な覚悟では出来ないことだよ。一つ捕捉しておくが、私が今後招待するつもりの人間は『普通の』人間ではない。厳正な審査の元、君たちと同じように心に深い傷を持つ者だけを集めるつもりだ」

「⁉ まさかアンタ、この為に僕達以外にも大勢の『被害者』を育てたっていうのか……⁉」



僕が激昂しかけるも、ケニー先生は片手でそれを制した。

「勘違いしないで欲しい。その子たちは僕の息がかかっていない言わば『天然物』だ。流石に僕一人でユートピアートを埋められるほどの作品は育てられないからね」

「要は……環境的要因で心の傷を負った人々を選別してユートピアートに招待するつもりなんですね」

「流石冬峰さん。どこかの二重人格さんと違って理解が早いね」

「……うるさいなあ……最高傑作とか言ったのはどこの誰だよ!」



僕が思わず憎まれ口を叩くと――ケニー先生は一瞬、見たこともないような穏やかな笑みを浮かべ、

「その言葉は嘘偽りない本物だよ。――そして、今後も本物であり続けることを祈っている」



そして、コツコツと足音を響かせて僕たちの横に立った。

「もう二度と、君たちと会うことはないだろうね」



立ち去り際、ケニー先生は僕と冬峰さんに囁く。

「そうですか。それはこの一か月で一番いい知らせですね」

「フフッ、そうかい。……雨宮君は長い間、そして冬峰さんは短い間の付き合いだけど実に楽しかったよ。最後にこれだけは伝えておく」



「私は――自分の作品が世に認められることを心の底から願っているよ」