「相変わらず秋人はうるさいなぁ……あれ? あそこにいるの神崎さんじゃない?」



僕が前方の人影に目を向けると、途端秋人は僕の背中に忍者の様に隠れた。

「どうしたの?」

「何でもないさっさと行け! いややっぱり行くな!」

「どっちなの? おーい、神崎さん!」

「バカ! 呼ぶな!」



急に様子がおかしくなった秋人を無視して呼びかけると、黒い長髪をなびかせて神崎詩織(かんざき しおり)が振り向いた。

「あ、おはようございます。勇樹君」



神崎さんが睡蓮の様な笑顔でニッコリと微笑む。

容姿端麗、文武両道、そして人当たりの良い神崎さんは男子からの人気も高い。

そんな神崎さんはなぜか僕と仲が良かった。

入学初日に突然話しかけられた時は驚いたけど、彼女も自分の立ち位置をちゃんと理解しているので周りに人目が無い時しか絡んでこない。

そこまで僕に関わろうとする理由は分からなかったけど、僕はあまり物事を深く考えるタイプではないので気にしたことはなかった。

「神崎さん、今一人?」

「はい。今日は友達がみんな風邪で休んでしまったので……」

「だったら僕たちと一緒に行かない?」

「いいんですか?」

「いいんですか⁉」



なぜか秋人の声と神崎さんの声がハモった。

暑苦しいからいい加減離れて欲しいんだけど。

「もちろんですよ。綾瀬と秋人もいいよね?」

「もちろん! 大勢の方が楽しいし!」

「あの神崎さんとご同行願えるなんて恐悦至極の賜り。喜んでお供馳せんじます」

「秋人キャラ変わってるけど大丈夫?」



そんな僕らのやり取りを見て、神崎さんがクスクスと笑う。

その日、僕ら四人は笑顔で喋りながら学校に向かい――



そしてその日誰も帰って来なかった。